1.自己呈示に関わる被服行動尺度の再検討


鈴木・神山(2003)による自己呈示に関わる被服行動尺度56項目を本調査で用いたが,各項目の記述統計量の結果より,天井効果・フロア効果のみられる項目が多くあった。鈴木・神山(2003)の研究データから約15年が経過しており,現代の大学生の服装傾向が当時と比べてある程度変わってきたことが考えられる。この15年の間にファッションとしてはいろいろな流行が存在したことから,必ずしも既存の尺度の項目においては,現代の大学生の被服行動が当てはまらないこと(=フロア効果になる)も考えられたため,鈴木・神山(2003)の尺度を本調査で使用したが,因子構造については改めて再検討することとした。

 天井効果のみられた項目(つまり,現代の学生の多くである程度当然のように当てはまるもの)としては,「自分の好きな服を着る」,「自分の好きなデザインの服を着る」,「パンツ(ズボン・ジーンズ)をはく」,「自分の好きな色の服を着る」であり,現代の大学生は多様な服装のスタイル・系統がある中で,自分の好きなデザインや色の服を選んで身につけていることが示された。また,「パンツ(ズボン・ジーンズ)をはく」の平均値は5.03(標準偏差1.16)であり,非常に高い数値となった。男性だけでなく,とくに女性もパンツ(ズボン・ジーンズ)を身に付けることが一般的であり,当たり前になっているということである。

 また,フロア効果のみられた項目(現代の多くの学生で当てはまらないもの)は「髪を染める」,「化粧をする」,「スカートをはく」,「化粧にこる」,「香水を使用する」,「パーマをかける」「薄化粧をする」,「ヒールの高い靴をはく」,「ピンク色の服を着る」,「古着を着る」,「高価なアクセサリーをつける」,「メガネやサングラスをかける」,「人をあっと驚かすような服を着る」,「高級ブランドを身に付ける」,「フリルやレースのついた服を着る」,「自分をか弱くみせる服を着る」,「みすぼらしい格好をする」といった項目であり,鈴木・神山(2002)が採択した『装いにおけるジェンダー志向』因子,『装いにおける奇抜さ志向』因子を構成する項目が多くみられた。

 このことより,女性のなかでも女性らしい服装や奇抜な服装をすることが,現代の学生においてはとくに重視されるわけではないことがいえそうである。また,今回の調査対象者が所属する大学は,都会の中心にあるわけではなく,そのためファッションやその流行の発信地というわけではない。また,わざわざ着飾ってきても自己呈示的な意味で自分の服装を見せる相手が少ないということもあり,通学する際にファッショナブルに着飾ってくる学生は少ないように思われる。また,多くの学生にとって通学のための移動距離がそれなりに長いため,女性にとってはヒールが高い靴で歩くのが大変であるとか,そもそも服を売っている店や様々な種類の服を取り扱っている場所が少ない(郊外のショッピングモールなどはあるが,デパート等は少ない)といったこともある。これらのことから,都会にある大学と比べて服装にあまり気を遣わない状況であることが考えられる。都会にある大学で同じ調査を行うなど大学の立地に注目した場合,今回とは異なる側面が結果として表れてくる可能性はあると考えられる。

 また,因子分析(主因子法バリマックス回転)の結果,『装いにおける流行志向』・『装いにおける社会儀礼志向』・『装いにおけるブランド志向』・『装いにおけるジェンダー志向』・『装いにおけるカジュアル志向』・『装いにおける個性志向』の6因子を採択したが,『装いにおける流行志向』・『装いにおけるブランド志向』・『装いにおける個性志向』は先行研究とは異なる因子となっている。

 つまり,『ブランド・流行志向』が『ブランド志向』・『流行志向』というように2つの因子として示されているが,安くても流行を押さえた被服の量販店などが一般的になっていることなどを背景に,高価なブランド品を購入するのではなく安価な服を購入することにより,流行のファッションを取り入れるという傾向が大学生の被服行動にみられることが推察される。

 また,Table3より下位尺度の相関がみられたが,これは服装に対する意識や関心の高さが影響することにより相関が出ていると考えられる。



back/next