1.はじめに
我々は日常生活の中で,毎日多様な意思決定をしながら生活している。買い物におけるちょっとした選択から人生の方向を決めるような大きな進路の選択まで,その重要度は違えども,毎日の中に意思決定をする場面はとても多く存在する。本研究では,意思決定の中でも,最も日常的な複数の選択肢から最も好むものを一つ選ぶという行為(選択行動)に着目する。そのような選択場面の例として分かりやすいのが,ほとんどの人が毎日経験する買い物で商品を選ぶ場面などである。
本研究では,そのような選択場面において,「選択肢の数,選択肢に関する情報の有無」によって,選択者の選択行動や選択中の魅力度(嬉しさ・楽しさ)にどのような違いがみられるかについて検討することを目的とする。同時に,選択に要する時間についても各条件で測定し,その長さにどのような違いが現れるのかを検討する。
また,近年,インターネットの普及などと共に,商品の種類や性能などで選べる内容が増えてきている。一般的には,選択肢は多い方がより良いのだという考えも多いだろう。しかし,一方で,その増えすぎた選択肢の及ぼす影響が良いものばかりでもないという報告も見られる(Iyenger & Lepper,2000)。先行研究では,これを「選択のオーバーロード」または「情報過負荷」と表現している。ただし,いくつかの先行研究で情報過負荷が報告されてはいるものの,その発生のための十分条件はいまだはっきりとは分かっていないことから,「情報過負荷」を安定して測定することが困難であると報告されている(八木,2014)。そのため,本研究では情報過負荷を測定することは目的とせず,「選択中の魅力度」と「選択に要する時間」を中心に調査を進めていく。その中でもし情報過負荷の生起が疑われる場合には,永井(2013)でまとめられている情報過負荷が生起されたときの特徴6つと照らし合わせて判断する。
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