考察 


2.本調査の結果について

2−1.仮説1,仮説3,仮説4の検討
 仮説のそれぞれの内容は,仮説1「選択肢が多いときの方が,少ないときと比べて,選択中の魅力度は高い。」,仮説3「選択肢が多いときの方が選択肢の少ないときよりも,選択に要する時間が長くなる。」,仮説4「選択肢に関する情報が有るときの方が,情報が無いときよりも,選択に要する時間が長くなる。」であった。
 「選択肢数条件」と「情報の有無」で,「選択時の魅力度」と「所要時間」に違いがあるかどうかを検討するために,「選択肢数」(3水準)×「情報の有無」(2水準)の2要因分散分析を行った。(Table 11)。その結果,旅行先を選ぶ場面と,全体(旅行先選択場面とグミ選択場面)の「選択所要時間」で,「情報の有無」の主効果が見られた。(F (2,1)= 13.02, p <.01,F (2,1)= 10.99, p <.01)。したがって,今回の実験では選択肢に関する情報が有るときは,無いときよりも選択する際に時間がかかることが認められた。よって,仮説4は支持された。しかし,選択肢数による「選択時の魅力度」と「選択所要時間」には有意な結果は見られなかった。よって,仮説1及び3は支持されなかった。
 まず「情報の有無」による「選択所要時間」の違いが見られたことについて考えてみる。これは情報が有る方が,情報が無いときよりも選択に要する時間が長くなるという結果であった。その理由として,情報が有るときは単純にそれらの情報を読み取る分の時間が増えるからであると考えられる。
 次に旅行先を選ぶ場面での魅力度の推移をみる。この場面では,魅力度が情報無しのときと情報有りのときとで反対の傾向が見られた(Table 11)。すなわち情報無し条件では,魅力度の平均が4個=7.40,8個=6.64,12個=7.00であった一方で,情報有り条件では4個=6.55,8個=7.36,12個=6.30であった。これをみると情報有り条件については,仮説に近い結果が見られているのではないか。有意な差ではないが,4個条件よりも8個条件の方が魅力度は高い。反対に,仮説では述べていないが12個条件になると魅力度が下降している。これは,情報過負荷による影響があったかもしれないと考えることができる。もちろん,今回の実験では「選択回避」に関する内容や「選択後の満足度」などについては測っていないため,これを情報過負荷によるものであると断定することはできない。しかし,「魅力度が低くなる」というのを「選択時のモチベーションが低下する」とほぼ同義であると考えると,永井(2013)で「情報過負荷」の特徴として述べられている。つまり,旅行先の写真が12枚印刷されており,加えて情報も添えられているという選択状況の中で,実験参加者は情報過負荷を生起させて,選択中に感じる魅力度が低くなったのではないかと考えることができるのではないか。A4の用紙に写真が12枚と,それに関する情報が各4ずつ印刷されている状態を実際に見ると,紙面上はかなり煩雑に感じられた。これは,別紙に添付してある質問紙を参照して頂けば分かるだろう。この煩雑さが,「選択中の魅力度」の低下を引き起こしたのではないかと考える。
 一方,情報無し条件の結果は,仮説で示した予測とはまったく異なるものであった。その原因は不明であるが,考えられることとしては,提示した旅行先の写真が4個のときと8個のときとで示された場所が異なっており,示された場所についての実験参加者の選好が影響したというのが挙げられるのではないか。しかしそれを確認する方法はないため,推測の域を出ない。

 続いて,グミ選択場面での魅力度の推移についてみてみる。これについても仮説に沿った結果が得られなかったが,その理由として,もともと実験参加者が持っていた選好がとても強く出ていたことが考えられる。実験の中で,どうしてその選択肢を選んだのかを尋ねたところ,「もともとそのグミが好きだから」という理由がどの条件でも群を抜いて多かった。これが,調査の結果に影響を与えた可能性は十分に考えられる。情報無し条件を見ると,その魅力度は4個=5.90,8個=5.18,12個=5.18と,4個条件が一番高くなっている。一方,情報有り条件では4個=5.18,8個=5.00,12個=5.80と12個条件が最も高くなっている(Table 11)。また,どちらも8個条件の時に魅力度が下がっている。さらに,所要時間を見ると,その8個条件のときだけ選択に要する時間が短くなっている。これらの結果から考えると,何らかの影響により,8個条件のときだけ実験参加者は魅力度を低く感じ,全ての選択肢に目を通さずに元々の選好に頼った選択をするなどの,ヒューリスティックな処理を行う割合が増えたのではないか。永井(2013)は,このヒューリスティックな処理も,情報過負荷を生起させた場合の特徴としてあげられている。つまり,情報の有無に限らず「グミの8個条件」においては情報過負荷を生起させた実験参加者もいたのではないか。
 次に,仮説3「選択肢が多い条件の方が選択肢の少ない条件よりも選択に要する時間が長くなる」について検討する。旅行条件については,有意ではなかったが,仮説に近い結果がみられたのではないかと考える(Table 11)。4個条件に比べて,緩やかではあるが選択肢の個数が増えると共に所要時間も長くなっている。やはり,Sicilia & Ruiz(2010)で選択肢・情報数の増加により「情報処理速度は鈍化するが態度は好意性を保った」と述べられていることからも分かるように,選択肢数の増加は選択に要する時間を少しずつでも長くするのではないかと考えられる。
 グミ選択場面での選択所要時間についてみると仮説に沿った傾向は見られなかった。しかし,仮説1の検討の最後で触れたように,8個条件のときに所要時間が短くなっていることが分かる。また,特徴的な部分として,旅行条件では4個条件のときが最も「選択所要時間」が短いのに対し,グミ選択場面では4個条件のときの選択所要時間が長く8個条件で短くなる傾向がみられることがあげられる(Table 11)。先にも述べたが,グミ条件では,実験参加者のもともとの選好がとても強く反映された選択結果になっていたことが影響していると考えられる。加えて,質問紙上でどのグミを扱うかによっても違いが見られてしまうだろう。8個条件のときだけ所要時間が短く,魅力度が低いということは,8個条件で提示したグミに魅力的なものがあまりなかったともとることができる。または,グミの写真の並べ方により魅力度が低く感じられ,その結果選択に時間をかけないという結果につながったと考える事もできるだろう。
 さらに,仮説に沿った結果が見られなかった他の理由として,今回の調査では選択場面が「質問紙上という架空の選択であったため」ということも考えられる。多くの先行研究では実際に品物などを用意した環境で選択する実験を行っている。そのために,実際に選んでいるときの魅力度に違いが現れたのではないか。しかし,本研究ではそうではない。このことが,仮説に沿った結果を導き出せなかった要因の一つであると考えることもできるだろう。また,長谷川(2015)が,選択行動の研究における課題として質問紙による調査の問題点として「場面想定法」による「現実との乖離」を指摘していることも関連があると言える。しかしながら,本研究においては「旅行先」や「グミ」などを扱っていたため現実味はそれほどまでに薄かったとは考えにくい。つまり,選択中の魅力度を左右するのは,実際に選択肢を目の前にするということ自体であるかもしれない。

2-2.仮説2の検討
 仮説2「選択肢に関する情報が有るときの方が,無いときよりも,選択中の魅力度が高くなる。」については,2-1で述べた2要因分散分析で,「魅力度」を従属変数としたときの「情報の有無」の主効果がなかったことから,支持されなかった。仮説の予測とは反対に,今回の結果ではむしろ「情報有り」のときの方が「情報無し」のときよりも「魅力度」は低いことが多かった。その原因としてまず考えられるのが,調査時に環境設定や指示などの点で統制を取り切れていなかった可能性があげられる。この部分については,今後の課題の章の中で十分に検討して改善点などを挙げたい。
 他にも考えられる原因の一つに,「与えた情報の質」によるものが考えられる。Keller & Richard(1987)やMuller(1984)では,「情報の量」に加えて「情報の質」にまで着目している。Keller & Richard(1987)では情報の重要度を4段階に,Muller(1984)では情報の質を2段階に分けて測定し,その違いによる実験参加者の購買行動や職業選択について調査している。その結果,「情報量の増加」に加えて「情報の質の向上」によっても情報過負荷が引き起こされることを示唆している。本研究では,与えた情報の重要度については検討に含めていない。しかし,本研究の調査結果では,有意ではないが「情報有りの方が情報無しのときよりも魅力度が低い」ことが多かった。この「魅力度が低くなる」というのは「選択時のモチベーションが低くなる」ことと同義であると考えられるだろう。「選択時のモチベーションの低下」は永井(2013)で「情報過負荷」の特徴の一つとして挙げられている。つまり,本調査の結果において「情報有りの方が情報無しのときよりも魅力度が低い」ことが多かった理由として,「与えた情報が実験参加者にとって重要度が高かったために情報過負荷が生起されたため」と考えることができるのではないか。

ここまで,全体の考察を述べた。仮説に近い結果ではありながらも,仮説を指示する結果が得られなかった部分がいくつか見られる。その理由の一つとして,実験参加者によって「選択中の魅力度」も「選択に要する時間」もどちらも,ばらつきが大きかったことが考えられる。またそれは同時に,調査を進める際の細かな指示や流れ,回答時のコントロールが行き届かなかった場面等の「統制」を取り切れていなかった可能性も考えられる。そして,調査で扱った選択肢である旅行先やグミの選出方法などについてもさらに検討し,より良い方法の模索などをする必要があると考える。それらについては,今後の課題の中で深く考察することとする。



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