1.はじめに


 青年期は子どもから大人への移行期であり,心身共に急激に成長する時期でもある。青年期による突然の精神的・身体的変化に様々な不安や悩みを抱える者は多く,時には1人で対応しきれないものを抱えている者もいる。しかし,榎本(1997)が,青年期では周囲に対して自己開示をしにくい時期であることを報告していることから,青年期では,自身の不安や悩みを他者に語ることへの恥ずかしさや他者から自身を否定されることへの恐れから,不安や悩みを開示することに躊躇しがちであり,最終的に自分の力だけで何とかしようと考えやすい傾向にあると考えられる。小野田(1999)は,感情の整理や表出が不十分な状態では,より不安定な自己を形成してしまう恐れがあり,否定的な感情を表出することが出来ない者は不登校等の問題を引き起こしてしまうことを指摘している。よって,青年期において,感情の整理や解放の手段を獲得することは,安定した自己を確立し,社会的な適応を促すことが考えられる。
 
 我々は自分の考えがまとまらない時や,感情が混乱している時に,自身の思考や感情を文字に書き起こすことで,それまで不明確であった今の自分の思考や感情に気づき,整理することが出来る。このような筆記行動によって記述された情報や思考,感情は,「書かれた言葉,文章」として視覚的に保存された。これは他の言語活動にはない筆記行動特有の特徴であり,筆記された文章を読むことで,過去の情報を再理解し,比較検討が可能となる(石川・佐藤, 2011)。つまり,筆記は他の言語活動同様にコミュニケーションツールとして用いられるだけでなく,自分について深く見つめ直すための手段として有効であると考えられる。
 
 現在,筆記が精神的・身体的健康にもたらす影響について,数多くの研究がなされている。本研究では筆記療法の内,「ロールレタリング」という技法に着目する。ロールレタリングはこれまで様々な研究報告がなされているが,ロールレタリング参加者の個人特性と心理的効果の関連についての研究はほとんど行われていない。ロールレタリングがどのような対象に有効であるかを明らかにすることで,ロールレタリングをより正確に実用することが出来るだろう。本研究ではロールレタリングがより効果的な対象の個人特性として自己意識と自己内省に着目する。



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