1.はじめに


  我々は日常生活の中の様々な場面で対人認知を行っている。個人的な関係における対人認知場面では対人魅力の要因が大きく影響している。たとえば身体的魅力の要因(Walster et al., 1966),類似性の要因(Byrne& Nelson,1965),近接性の要因(Festinger et al., 1950)などが挙げられる。身体的魅力の要因は,端的にいえば,外見が素敵な人には対人魅力を高く感じるということであり,人は人に魅力を感じるとき,その要因として身体的魅力が大きく影響している,ということである。類似性の要因は,自分と似ていると思う相手に魅力を感じるということであり,考え方が似ている人や,出身地や誕生日,趣味が同じ人に興味をもつのは,相手との類似性が大きく影響しているということである。さらに近接性の要因は,接触する回数が高かったり物理的距離が近かったりする相手に魅力を感じやすいということである。これらは個人的な関係における対人認知の場面ではたらく要因であるとされている。
 
 一方,個人的な関係性がない場合でも,他者に魅力を感じる場面は多々ある。たとえば,芸能人やスポーツ選手など社会的に公的な存在として認知されている人たちに対して魅力を感じることがある。この場合,湯川(1974)の 同一視の要因などが働いていると言える。湯川は,「同一視とは,ある個人がある特定の他者に対して抱く共感的な親和感情とそれに基づいた自発的模倣行動」と定義している。憧れる他者や目指したい相手の優れた性質を自分自身に取り入れ,自分自身の存在をそうした他者と重ね合わせることによって自分自身の価値を高めていこうとする心の動きのことである。アーティストやスポーツ選手のファンの多くは,そのような心理状態を含有していると考えられる。
 
 ところで,社会的に有名な人のなかには集団として活動している人たちも多い。プロスポーツの選手集団やアイドルグループなどはそれに該当する。これらの集団に対しても,一定の「ファン」と呼ばれる層がおり,当該集団に対して行動的・心理的な支援支持の行動をしている。このような社会的態度形成のベースには,当該集団が持つ魅力要因があると考えられる。プロスポーツの選手やアイドルを単体で認知するのであれば,魅力要因の第一に肉体的な身体やかっこいい顔など「身体的な魅力」が挙げられそうであるが,スポーツ集団やアイドルグループを,グループとしてその魅力等を認知するときは,どのような要因が働いているのだろうか。社会心理学領域における対人魅力の研究では,個人単体の魅力要因を明らかにしてきたが,それらの対人魅力の規定要因とは別の要因が働いているのではないだろうか。

本研究では,このような観点から,集団に対する魅力要因について検討する。



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