1.はじめに


 教育現場には多様な個性を持った子どもたちが存在する。時代とともに子どもを取り巻く環境が複雑化し,教師が子どもを理解するのに悩むこともあるだろう。近年ではSNSの普及により,子ども同士の人間関係を把握するのが難しいと予想される。教師は子どもを指導する際に,子どもの成長や新たな発見に喜びを感じながらも,さまざまな課題や問題を抱え,日々懸命に指導をしている。
 
 文部科学省(2006a)は,社会状況や子どもの変化等を背景として,学校教育における課題について以下のようにまとめている。 @子どもの学ぶ意欲や学力・気力・体力が低下傾向であるとともに,様々な実体験の減少等に伴い,社会性やコミュニケーション能力等が不足している。 A仮想現実やインターネットの世界に過度に浸ったことも原因と考えられる事件が発生するなど,子どもたちの間に「新しい荒れ」とも言うべき状況が見られる。 BLD(学習障害)やADHD(注意欠陥/多動性障害)や高機能自閉症等の子どもへの適切な支援など,子どもや学校教育に関する新たな課題や,それに関する知見が明らかになりつつある。 他にも,指導困難な子どもの背景に,いじめや暴力などの子どもの問題行動が存在する。いじめ防止対策推進法が2013年に施行されたが,いじめによって子どもが自ら命を絶つという悲劇は繰り返されているのが現状であり,今後も子どもの問題行動への対応を検討していかなければならない。
 
 文部科学省(2006b)は,子どもの問題行動について,未然防止と早期発見・早期対応の取り組みを重視している。また日常生活の指導の中で,子ども一人一人を把握し,教師と子どもとの信頼関係の形成が重要であると報告している。また,問題行動に対する適切な対応として,学校は,教育委員会の支援や家庭・地域と連携し,教師は日常的な子ども一人一人との関係づくりをすることが重要であると述べている。 中井・庄司(2008)は,中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連について研究し,生徒の教師に対する信頼感が,教師関係・学習意欲・進路意識などの,学校適応感に影響を与えることがわかった。また生徒の教師に対する信頼感の中でも,教師に対する「安心感」が最も多くの学校適応感に影響を及ぼしていることを報告している。 このように,子どもの問題行動に対して,教師と子どもとの関係性や教師の指導が重要であるといえる。よって,教師は日々学校で生活する子どもたちに多くの影響を与えており,教師の存在は子どもにとって重要なものの一つであるといえる。



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