【問題と目的】
1.はじめに
2015年3月「道徳の時間」は「特別の教科 道徳」へと改訂され,道徳が教科へと位置付けられた。これはいじめに関する痛ましい事件をきっかけに,文部科学省(2016)によって行われた改革である。そして2018年から小学校にて道徳科の完全実施が始まり,道徳教育は大きな転換期を迎えている。
道徳の教科化に伴って,文部科学省は道徳教育の方法を,従来の読み物中心とした道徳から「考え,議論する道徳」へと転換しようと試みた。従来の道徳の副教材であった「心のノート」「私たちの道徳」に変わる新しい検定教科書が作成され,多様な価値を育成することができるよう,従来の価値観を押し付ける道徳教育からの脱却を図った。しかし,教科化したことによる批判や,従来の道徳教育と似通った要素など,教科化した道徳について問題点も指摘されている。
本研究では,教科化された,新しい道徳が多様な価値を育成するための一要素として,教科化によって新しく生じた検定教科書について,分析し,検討していく。また,実際の授業を観察することにより,多様な価値を育成する道徳の授業について,わずかばかりの提言をするものとしたい。
また,本研究について,はじめに一つ断っておく。本研究では,道徳教育に関するキーワードとして「内容項目」「内容を端的に表すキーワード」「道徳的諸価値」「価値項目」といった語が出てくるが,全て同義として扱い,解釈する。
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