【問題と目的】
2.道徳


 2−1.道徳の歴史  

 さて,近年の道徳教育について論じるためには,まず道徳教育の起源に目を向ける必要がある。道徳教育の起源と一言に言っても,その源泉をたどることは途方もない。本研究では,手始めに戦前の道徳教育について,簡単に提示する所から始めたい。日本の道徳教育の歴史,特に公教育における道徳教育は,以下のような流れで現在に至る。
 明治時代以降,道徳教育は初等・中等学校における主要な教科として,修身という名ですでに行われていた。その内容は,1890年に発布された教育勅語を基盤に,天皇と国家への忠誠を第一とする,国家主義的なものであった(教育小事典,2016)。
 第二次世界大戦終戦が訪れると,GHQによって民主化が推し進められ,極端な国家主義・軍国主義であった修身は廃止された。その後,道徳教育の内容は「幸福や理想を目指して共同社会の一員として働く自覚をもたせ,普遍的な国際性をもった人格を形成しようとする」ものへと改められ,特定の授業時間をもたず学校教育全体を通して指導されることとなった。道徳教育の時間としては,当初は社会科を中心として行われていたが,1958年,学習指導要領の改訂をもって,「道徳の時間」を中心とした道徳教育が始まり,年間35単位時間,およそ週1時間の道徳の授業が設けられた(ベネッセ,発行年不明)。
 2008年に学習指導要領が改訂され,「道徳の時間」は,より道徳教育の中心を担うものとして位置づけられる。「道徳の時間」は通常,学級担任が指導するが,この改訂によって「校長・教頭の参加,他の教師との協力的な指導など,『道徳教育推進教師』を中心とする指導の強化」が強調された。
 このように,戦後の道徳教育を基礎に,従来の学校全体で取り組む道徳教育や「道徳の時間」は作られている。では,従来の道徳とは,具体的にどのような特徴や批判があるのだろうか。



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