【問題と目的】
2.道徳
2−2.従来の道徳
まず,従来の道徳教育の特徴として,読み物中心型の授業方法が挙げられる。これは,価値項目を象徴するような物語文を提示し,それを元に授業を展開する方法である。しかし,文部科学省(2016)も述べているように,読み物中心型の授業は,読み物の登場人物の気持ちを読みとったり,感想を述べたりするだけで授業が終わってしまうという批判がなされた。これに加えて,いじめなどの現実の問題に対処できない,という指摘もなされた。
次に,授業内容について,深澤(1990)は従来の道徳教育を徳目注入授業であるとし,絶対的な価値項目のすりこみを批判している。徳目注入授業とは,@価値項目と直結し,価値項目に気づかせる発問をするA資料を扱うB価値項目と直結し,価値項目の大切さを押し込む発問をするC価値項目と直結した,子ども以外の者の話,の流れで行われる授業である。深澤(1990)は,徳目注入授業は,教えるべき価値項目を児童生徒が察してしまい,多様な価値観が生まれないと批判した。船越(2018)は,この価値の伝達・注入型の授業を「多様であるべき個人の感性を,1つの『価値項目』にあてはめようとしている」授業であり,「児童の議論の『白々しさ』が生まれる」と述べている。また,「教師向けの『答え』と自分の本当の思いが分裂するダブル・スタンダートに陥る」と主張している。
従来の道徳の授業で広く扱われている教材本『私たちの道徳』についても,批判点が挙げられている。本田(2018)は,次の3点について批判している。@『私たちの道徳』そのものが,社会的・政治的問題に対して「全てを自己責任として引き受け,既存の国家と社会をありがたがり,迷惑をかけないことを教えようとする意図に貫かれている」点A守るべきルールが与えられ,発達段階が進むにつれ,それを順守することの必要性を「空気のように感じる」ことが求められる危険性がある点B道徳授業における葛藤場面において「現在の国家・社会において支配的な価値,ルールが要請するものと,『適切に状況を判断し,自制すべき』個人の価値観,ルール」が葛藤を起こしているだけであって,それを通じて新たな価値やルールが生まれることを想定されていない点,である。
これらのことから,従来の「道徳の時間」についての先行研究では,教えるべきルールや価値を生徒に押しつけることを否定的に見ていると言える。さらに,道徳的諸価値が形骸化することについて懸念されていると推察できる。また,これらを脱却するためにも,道徳科の授業は実施される運びになったが,それに先立って改訂された学習指導案の特徴は次節の通りである。
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