【問題と目的】
2.道徳


 2−3.学習指導案の改正  

 船越(2017)によると,2008年に改正された学習指導要領には,2つの特徴がある。1つは学習期間についての設定,もう一つは愛国心の育成について,である。
 まず,学習期間についての設定であるが,従来の学習指導要領では,授業を実施する期間について「学期の内外を問わず」という文言で設定されていたが,改訂学習指導要領では「夏季,冬季,学期末の休業日の期間」と,より明確に期間が設定された。船越(2017)はこれを,学校現場に長期休暇期間の授業実施を強く求める効果があるとし「詰め込み主義」で「競争主義」な勉強を増長すると述べている。
 次に愛国心の育成についてであるが「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」という文言が追加された。船越(2017)は,これを国家主義に導くものだとし,批判を加えている。船越(2017)は,この愛国心育成の方針が具体化した動きこそ,道徳教育重視の風潮であると述べている。さらに「個性尊重と述べながらも,最終的には『日本人としての自覚』や『愛国心』に集約させるようにマインドコントロールする」ことや「ボランティアを学ばせると称して,強制したり,国や行政の責任であろうことでも自己責任として理解させたりするような考えが見え隠れするような行事や企画の参加強制」の増加に陥るのではないかと批判している。
 では,2018年度版の学習指導要領ではどうだろうか。2018年度版学習指導要領の作成過程で示された愛国心の育成について,本田(2018)は,社会科における領土問題の扱い方や,体育科に新設された「銃剣道」にふれ,「国家が想定する『よき』人間像の実現に向けて,各教科・領域の学習活動が総動員される構造がより明確に打ち出されている」と分析し「現在の支配体制や経済構造」の維持と繁栄のために,「純粋な日本の文化,伝統」を利用しようとする「新国家主義」の表れであると主張している。さらに,道徳科で目指される「道徳性」とは,この「新国家主義」的な考えであると批判した。つまり,社会に対し,批判的意識を一切持たず,自己責任として受け入れ適応することや,グローバル化に伴って起こる諸問題を「『純粋な日本の伝統,文化』という幻想」で抑圧する態度こそが求められているのだという。
 よって,多様な価値観の育成と言いながらも,道徳科設立の根底には,国家に対して都合のいい価値観を育成しようとする流れがあるのではないか,と疑われていると言える。



back/next