【研究1】
検定教科書本文に関する考察
5−1.共起ネットワークで得られた共起関係について
教科書本文について,KH Coder 3を用いてコーディングを行い,共起ネットワークを作成した。その結果,自分系とお母さん系,お母さん系と言語系,お父さん系と移動系に
強い共起関係が見られた。また,自分系とおばあちゃん系・内面系,お母さん系とお父ん系・五感系,お父さん系と仕事系にそれぞれ中程度の共起関係が見られた。
今回研究対象とした教科書本文の場合,自分系はたいていの場合,子ども本人を指している。自分系と内面系に共起関係が見られた理由については,検定教科書本文の物語において,視点人物の大半が子どもであったことが挙げられる。
次に,母親・父親と子どもの関係について見ていく。
まず,母親と子どもに強い共起関係があり,母親は「言う」などの言語を発する動作や「見る」など五感を司る言葉と共起関係である。つまり,検定教科書では,母親は子供に対し,五感で感じられ,直接言語的なコミュニケーションがとれる位置にいる近しい存在として描写されている。一方,父親は仕事・移動と共起関係があり,家にいる時間が少ない存在として描かれている。これは牟田(2018)の言う「ワンオペ育児」に酷似していると思われる。「ワンオペ育児」とは,父親は育児に参加できず仕事一辺倒となり,母親のみが子どもの面倒を見るという事態を指す。近年の女性の社会進出を推し進める風潮や,父親も親である以上育児に参加すべきだと言う意見を受け,現在の社会では「ワンオペ育児」は推奨されるものではないとされている。
また,子どもと祖母に共起関係が見られた点についても,祖母が母親の延長線上にあり「ワンオペ育児」の関係性をそのまま持ち越しているのではないかと推察できる。
よって,検定教科書本文では,現在否定されるべきあり方が積極的に提示されているといえる。
←back/next→