1.はじめに


我々人間は,誰しもが何かしらのストレスを感じながら日常生活を送っている。ストレッサーには騒音や人混みといった物理的ストレッサー,体の不調や痛みといった身体的ストレッサーに加え,特に様々な人間関係から生じる心理・社会的ストレッサーがある。普段我々が「ストレスだ」「ストレスに感じる」という具合に称している「ストレス」の多くは心理・社会的ストレッサーのことを指しており,心理・社会的ストレッサーは人間の精神的健康へ大きく影響を与えることが,先行研究から明らかにされている(岡安1992; 橋下1997)。心理・社会的ストレッサーの中でも対人関係から生じるトラブルである対人ストレスイベントは最も遭遇頻度の高いストレス状況であると考えられている。原田・尾関・津田(1992)は,大学生に「最もストレスに感じていること」について記述をさせたところ,実に23.8%もの割合で人間関係についての記述があったことを報告している。このことからも,大学生において対人ストレスがいかに身近なストレッサーとして存在しているかが確認できる。更に青年期において最も重要だと考えられている対人関係が友人関係であることから(加藤, 2007), 大学生において,友人関係での対人ストレスは青年期にとって主なストレッサーであることが推測される。
 人間は何かストレスを感じると,通常そのストレスに対してコーピング(対処行動)を取る。そしてコーピングが上手くなされれば,ストレスを解消することができる。しかしコーピングに失敗すると,ストレス反応を生じ,抑うつや不安といった精神的健康に重大な影響を与える。コーピングの方法は人によって様々であり,ストレスとなっている出来事に対して,直接解決をする人もいれば,体を動かす・物を食べる・買い物をするというような「ストレス発散」のようなコーピングをする人もいるだろう。また,人は出来事を2段階の評価によってストレスか否かという評価をしていると考えられている。1次的な段階ではそもそも自分にとってその出来事がストレスであると感じるのかどうか,2次的な段階では(ストレスと感じたならば)コーピングが可能かどうか,という一連のストレス過程を経ていると考えられている。
 上記のストレス過程に影響を与える個人内要因として,性格や自己意識などとの関連の検討が先行研究において行われているが(岡安, 1992),本研究においては相互独立性?相互協調性を設定する。高田(2003)では相互独立性が肯定的な自己意識に,相互協調性が否定的な自己意識に影響を与えることが示唆されている。一般的に自己意識の高さはストレス反応の高さに,自己意識の低さはストレス反応の低さに結びつくと考えられている。しかし,ストレス反応より以前のストレス過程においてこれまでに考察されているものは僅かである(高田,2007),よって本研究では相互独立性?相互協調性がストレッサーの認知およびストレスコーピングにどのように影響を与えるのかを検討する。



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