2.認知的評価


 ストレスを感じやすい人,感じにくい人。感じても上手く解消ができる人など,ストレスの認知と対処は人によって様々である。パーソナリティや職種,文化や発達課題など 様々な要因との検討がされた研究が蓄積されている。
 ストレスに関しての学説は,大きく2つの論に分かれる。身体的・生理的要因を重視したSelye(1978)の汎適応症候群(general adaptation syndrome)とLazarus&Folkman(1984)の認知的評価論(cognitibe appraisal theory)である。
 Selye(1978)は身近な人の死や転職,試験といった種々のストレッサーに対する身体的な反応を汎適応症候群という言葉を用いて説明した。これは,ストレッサーに対する反応が,「警告期」・「反抗期」「疲弊期」の3段階に分かれると考える理論である。警告期の段階では,ストレッサーを感じ,ショックのため一時的に抵抗力が低下する。この時身体的反応として,体温や血圧,血糖値が低下し,さらに神経活動は鈍くなり,筋肉の弛緩が生じる。次の,反抗期では,受けたストレッサーに対して身体は積極的に抵抗するよううになり,自律神経系や内分泌系および免疫系などの生理的機能は亢進する。具体的には,血圧の上昇,胃酸分泌の増加,血糖値の上昇,胃粘液の減少などである。そして,最終段階の疲弊期では,長期に渡るストレッサーに対しての生理的反応によって抵抗は限界に達し,警告期よりもさらに弱化する。このように,セリエはストレッサーとなる様々な事象が,身体的・生理的に影響を与える事に主眼を当てて,論じた。しかし,事象として同じストレッサーを感じたとしても,人によって受け止め方が異なる。例えば,離婚という事象は人生に関わる大きなイベントであり,そのストレスの度合は上位に当たるとされている。だが,相手との関係が険悪であり,共に空間を共有することも苦痛な夫婦がいるとした場合,離婚はストレッサーを緩和してくれる事象になり得る。人によってストレッサーの受け止め方の違いに着目をしたのが,Lazarus&Folkman(1984)である。
 Lazarus&Folkman(1984)が提唱した認知的評価論は現在でも様々なストレス研究において,主要な理論として用いられている。認知的評価論では,ストレッサー認知を一次的評価と二次的評価に分類しており,ある状況に対して一次的評価ではその問題がいかに自分に影響するか,どれだけ自分に関係するのかという「脅威性」「影響性」「コミットメント」の3側面から捉え,その状況が自分にとって無害?無関係もしくは肯定的と捉えるとストレッサーとして認知されることはないためストレス反応も示さない。しかし,ストレスフルであると捉えると二次的評価へと移行する。二次的評価ではその状況に対して自分が対処できるかどうかを「コントロール可能性」として分類し,対処可能と評定すると対処行動(コーピング)へと移り,対処不可と評定すると,ストレス反応を生じさせる。 認知的評価についての研究としては,長尾・松永(2016)はレジリエンスと認知的評価が精神的健康に与える影響を検討した。一般に,レジリエンスが高ければ高いほどストレッサーの認知及びストレス反応は低減され,精神的健康が維持されると言われているが,レジリエンスが高い場合でも認知的評価における脅威性を高く評価すると精神的健康が低下する傾向があることを明らかにした。西田(2001)は大学生を対象に学年差によるストレッサーへの認知的評価の違いと,コーピングの違いを検討した。特に1年生で「大学入試」4年生で「卒業論文」や「就職活動」といった進路選択によるストレッサーが認知されていることを明らかにし,更にこれまでネガティブなものとして捉えられていた認知的評価の一次評価における脅威性因子が,大学生においては積極的な問題解決を,もしくは逃避・回避的な対処を選択しないというポジティブな対処を促進することを明らかにした。

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