考察


 本研究の目的は大学生が最も経験すると考えられる友人関係における対人ストレスを感じた際,どのようにこれを認知し,対処や解決をしているのかを明らかにするため,相互独立性?相互協調性が認知的評価及び対人ストレスコーピングにどのように影響を与えるのかについて@-Fまでの仮説を検討することであった。以下結果を参考に考察していく。

1. 相互独立性−相互協調性と認知的評価との関連
相互独立性−相互協調性が認知的評価と対人ストレスコーピングにどのように影響を及ぼすか検討するため,相互独立性−相互協調性の下位尺度と認知的評価の下位尺度を独立変数とし,対人ストレスコーピングの下位尺度を従属変数とした共分散構造分析を行った。その結果,相互独立性における「個の認識−主張」が高い人ほど認知的評価における「対処効力感」を強く感じることが示された。高田(1999)は「個の認識−主張」を他者とは異なる自分自身を認識し表現することであると述べており,その内容は「常に自分の意見を持つようにしている」「自分の意見をいつもはっきり言う」「いつも自信を持って発言し,行動している」など,物事に対しての確固とした自分の立場や意見,揺るぎない価値観を持つことを指していると考えられる。また,加藤(2001)は「対処効力感」を,ストレスフルなイベントに遭遇した際個人が望む結果を得るために,コーピングを上手く実行できると言う個人の期待,コーピング遂行可能性感と定義している。これは「自分の望み通りの結果が得られるようにそのストレスに対してうまく対応できる」「その状況を変えることができる」など,ストレス状況に対しての対処能力を持ち,具体的な行動をとることができるという一種の自信を指しているとも考えられる。これらより,他者と自分との差異を主張する人ほど,友人との対人ストレスに対して自身の思うようにストレスを対処・解消可能であると評価していることが示された。よって,仮説@は一部支持されたと言える。なお,他者に配慮せず自分の判断で行動する「独断性」からは対処効力感の他,どの下位尺度にも有意なパスが見られず分析から外しているため,仮説@が一部支持されたと考えるのが妥当であると判断した。

 分析の結果,相互協調性の「他者への親和−順応」が高い人は認知的評価の「重要性」を高く評価することが示された。すなわち,他者との対立の回避や協調をより重視しようとする人ほど,友人との対人ストレスを「自分にとって重要なこと」で「自分に重要な影響を与えるものだ」と認知していることが示唆された。同様に,相互協調性の「評価懸念」が高い人は認知的評価の「脅威性」を高く認知していることが示され,他者を意識し評価を気にする人であればあるほど,対人ストレスが自分にとって苦痛や負担を与えるものであると評価することが明らかになった。これらより,仮説Aは一部支持された。なお,高山・戸渡(2010)でも相互独立性−相互協調性と認知的評価を含む共分散構造分析による検討を行なっており,相互独立性は統制可能性(本研究における対処効力感)との間に正の相関が見られ,相互協調性は影響性(本研究における影響性及び重要性)との間に正の相関が見られている。本研究では相互独立性?相互協調性を下位尺度レベルで検討しているため,完全に対応しているわけではないが,今回の結果は概ね一致していると言えるだろう。



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