考察
3. 相互独立性−相互協調性と認知的評価,対人ストレスコーピングの全体効果
「個の認識−主張」から「ポジティブ関係コーピング」に有意な正の影響が見られたことから,他者に対して自分の意見を明確に言える人であるほど,対人ストレスイベントに対して積極的に相手との関係性を改善しようとすることが明らかになった。
「評価懸念」から「ポジティブ関係コーピング」の間に有意な正の影響が見られた。また,間接効果として「評価懸念」から「脅威性」を介して,「ポジティブ関係コーピング」に有意な負の影響が見られた。総合効果として「評価懸念」から「ポジティブ関係コーピング」に正の影響が見られた。他者からの評価を気にする人は相手との関係性の悪化や崩壊を恐れ,これを防ぐために出来るだけ相手のことを理解しようとしたり,自分に非があったのではないかと反省したりすることも考えられる。ここで,そのストレス状況が自分に脅威であるという評価が加わると,逆に出来るだけ相手との接触を避けるコーピングを採用することが明らかとなった。とはいえ総合効果は正の影響を示しており,評価懸念が高い人ほどポジティブ関係コーピングをとることが明らかにされた。ポジティブ関係コーピングは「他者との関係に敏感で,関心の高いパーソナリティの持ち主であるほど,使用頻度が高いコーピングである」ことが明らかにされており(加藤,1999),評価懸念はまさにこれに当てはまるパーソナリティ要因であると推察される。これらより,仮説Fは概ね支持されたと考えられる。
「他者への親和?順応」から「解決先送りコーピング」の間に有意な正の影響が見られた。間接効果として「他者への親和−順応」から「重要性」を介して,「解決先送りコーピング」に有意な負の影響が見られた。総合効果として「他者への親和?順応」から「解決先送りコーピング」へ有意な正の影響が見られた。他者との対立を避けることや調和を重んじる人ほど,対人ストレス場面で成り行きに任せたり,気にしないようにしたりするというコーピング方略を取ることが示唆された。しかし,その対人ストレス状況を自分にとって重要であるという評価を媒介すると,先送り的なコーピングは抑制されることが示された。これも「評価懸念」から「ポジティブ関係コーピング」と同様に,間接効果は見られるものの,総合効果は正の影響を与えており,他者への親和−順応が高い人ほど解決先送りコーピングを選択することが再確認された。これらより,相互独立性?相互協調性から直接的に対人ストレスコーピングに与える影響が認知的評価を媒介して及ぼす影響よりも大きいと言うことが示唆された。
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