1.はじめに
私達は,「過去の出来事があったから今の自分がある」「未来の目標のために現在努力をしている」などと時間の流れと関連づけた認知や見通しを持っている。都筑(1993)は,「自分自身の過去を振り返りつつ,未来の目標に向けて生きていくことが青年期になって初めて可能になる」と述べており,過去を振り返り未来の目標を立てていくこと,また,それに向かって行動していくことは青年期の課題であると言えるだろう。その中でも,青年期は自分の将来について考える機会が多いため,未来への意識が重視される。しかし,白井(2008)は,「過去に関心を向ける活動があり,次に未来に関心が向いて未来を立ち上げる活動が起き,そして現在へと返ってきて現在を豊かにする活動となる」と述べており,未来を見据える前には過去を振り返り,受け止め,過去を現在や未来に活かしていこうとする必要があるのではないかと考えられる。
過去と未来の関連について,石川(2014)は,過去を過去として受け止め,現在において過去を現在や未来につながるものとして統合的に位置づけることができた場合,将来への希望や将来目標を持つことができる点を明らかにしている。また,石川(2017)は過去のとらえ方と精神的回復力との関連も明らかにしており,過去に対し受容的な態度をもち,過去を現在や未来と連続しているものとしてとらえている場合,様々なことにチャレンジしていこうとする特性を持っていることを明らかにしている。このように,過去のとらえ方の違いによって個人の特性や将来への希望に違いがあるのであれば,様々な目標に向かって生活をしている現在の行動や認識にも違いがあるのではないかと考えられる。
現在の行動として,本研究では社会人基礎力を用いる。社会人基礎力とは,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として,経済産業省(2006)が提唱しているものである。近年,企業や若者を取り巻く環境が大きく変わってきており,基礎学力や専門知識をうまく活用していくためにも,意識的に社会人基礎力を育成していくことが今まで以上に重要となってきている。そのため,今求められている力や行動力であると考えられる。よって,本研究において現在の行動として取り扱うこととする。この社会人基礎力に関する研究の一つとして,時間的展望との関連を明らかにした奥田(2014)の研究がある。奥田(2014)によると,過去現在未来への価値観の違いによって社会人基礎力の「前に踏み出す力」「考え抜く力」が異なることを明らかにしている。そのため,過去のとらえ方の違いによっても社会人基礎力に違いがあることが考えられる。
さらに,現在の認識として,本研究では幸せへの動機づけを用いる。幸せへの動機づけとは,個人の日常生活における動機づけのことであり,現在において,何を目的として行動しているかを見ることができると考えたため,本研究において取り扱うこととする。幸せへの動機づけに関する研究の一つとして,若者の将来や現在に対する価値観との関連を見た南(2015)の研究がある。南(2015)は,若者の将来や今に対する価値観と幸せへの動機づけとの関連を明らかにしている。現在や未来への価値観との関連があるのであれば,過去のとらえ方とも関連があることが考えられる。
以上のことを踏まえ,本研究において,大学生の過去のとらえ方を知り,過去のとらえ方の違いによって現在の行動や認識にどのような違いがあるのかを検討する。現在の行動や認識として,幸せへの動機づけと社会人基礎力を扱い,何を目的として現在を生きているのか,普段どのような行動をとっているのかを見ていくこととする。
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