考察
3. 過去のとらえ方と幸せへの動機づけとの関連
過去のとらえ方と幸せへの動機づけとの関連を調べるために,クラスタ分析によって得られた3群を独立変数,HEMA尺度の下位尺度得点を従属変数とした一元配置分散分析を行った。その結果,群間の得点差に有意差は見られなかった。仮説で影響があると考えていた「くつろぎ追求」「幸福追求」に有意差が見られなかった理由として考えられるのは,同じような過去展望を持っていたとしても,何を目的に生きているかは多種多様であるということである。また,相関係数を算出した際,「連続的なとらえ」と「くつろぎ追求」「幸福追求」には関連があったのにも関わらずこのような結果になったため,石川(2014)が示した「過去のとらえ方は複雑である」ということが改めて示唆されたと言える。
4. 過去のとらえ方と社会人基礎力との関連
過去のとらえ方と社会人基礎力との関連を調べるために,クラスタ分析によって得られた3群を独立変数,社会人基礎力尺度の下位尺度得点を従属変数とした一元配置分散分析を行った。その結果,「主体性」「課題発見力」において群間の得点差に有意傾向が見られた。
「主体性」は,過去軽視群,統合群の得点がとらわれ群よりも有意に高かった。「主体性」とは,「物事に進んで取り組む力」のことであり,社会人基礎力の中の「前に踏み出す力(一歩前に踏み出し,失敗しても粘り強く取り組む力)」の一つとされている力である。とらわれ群は,過去軽視群・統合群に比べて過去に対して否定的な態度や認識を強く持っていることが特徴としてあげられるため,過去に対して否定的な態度や認識を強く持っていることが物事に進んで取り組む力に影響を与えているのではないかと考えられる。石川(2014)でも,否定的態度や認識を他の群よりも強く持っているという特徴を持つ「葛藤群」,「とらわれ群」が,他の群よりも「将来への希望」の値が低いという結果になっていた。「将来への希望」の値が低いということは,未来に対してポジティブな見方を持つことができておらず,現在の生活において様々な物事に取り組むモチベーションも低いということが考えられる。
「課題発見力」は,統合群の得点がとらわれ群よりも有意に高かった。「課題発見力」とは,「現状を分析し目的や課題を明らかにする力」のことであり,社会人基礎力の中の「考え抜く力(疑問を持ち,考え抜く力)」の一つとされている力である。「統合群」は「とらわれ群」に比べて,過去に対して否定的な態度や認識を持っておらず,過去を現在や未来につながるものとして見ており,過去を過去として受け入れているという特徴を持っている。そのため,「統合群」は「とらわれ群」に比べて,過去の出来事を否定的にとらえるのではなく,自分にとって大切なものとしてとらえ,これからに活かしていこうという力が強いために,「現状を分析し目的や課題を明らかにする力」に差が出たのではないかと考えられる。
以上より,仮説3,4は一部支持されたと言える。
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