1.SNS疲れと主観的幸福感との関連


 本研究では,受動的・能動的SNSストレスイベント尺度(名取他,2014),自己愛的脆弱性尺度(上地・宮下,2005),青年期前期過剰適応尺度(石津・2006)の3つの尺度について因子分析を行ったのち検討した。

 受動的・能動的SNSストレスイベント尺度の因子分析の結果,「注目獲得欲求」,「他者との比較」,「本音の抑制」,「繋がり欲求」,「ネガティブ感情」の5因子が抽出された(Table 5)。「注目獲得欲求」に関しては,他者からの反応を伺う項目やわざと自分に注意を向けさせるような項目が多く,「疲労しているようなつぶやきや投稿をして反応を誘う」などの項目が含まれた。「他者との比較」に関しては,他者の生活や日常の様子と自分を比較するといったことを示す項目が多く,「他人のつぶやきや投稿を見ると劣等感を感じることがある」などの項目が含まれた。「本音の抑制」に関しては,自分のつぶやきや投稿に向けられる他者からの目を気にすることを示す項目が多く,「人目を気にして,本音を投稿できない」などの項目が含まれた。「繋がり欲求」に関しては,他者の様子や行動を常に知っておきたい,常に人と関わっていたいといった気持ちを示す項目が多く,「SNSから一旦離れたりすると,孤独感を感じる時がある」などの項目が含まれた。「ネガティブ感情」に関しては,他者のマイナスな発言に気を病むことを示す項目が多く,「他人のネガティブなつぶやきや投稿を見ると気が滅入る」などの項目が含まれた。

 自己愛的脆弱性尺度の因子分析の結果,「他者への視線の過敏さ」に関しては,他者からどう思われているかを気にすることを示す項目が多く,「自分の発言や行動が他の人からよく評価されていないと,そのことが気になって仕方ない」などの項目が含まれた。「潜在的特権意識」では,自分に対する他者の対応の変容を求めるような項目が多く,「周りの人の態度を見ていて,こちらへの配慮が足りないと思うことがある」などの項目が含まれた。「承認賞賛獲得欲求」に関しては,他者から注目され認められたいという気持ちを示す項目が多く,「私は優れた人や目上の人から認められたいという気持ちが強い」などの項目が含まれた。「自分自身を励ます力の弱さ」に関しては,自分が悩んだりしたときに人に頼るといった行動を示す項目が多く,「悩んだり落ち込んだりしたときに相談できる人が身近にいないと,私は生きていけないと思う」などの項目が含まれた。

 青年期前期過剰適応尺度の因子分析の結果,「人からよく思われたい欲求」に関しては,人からの評価を気にして振る舞うようなことを示す項目が多く,「人からほめてもらえることを考えて行動する」などの項目が含まれた。「自己不全感」に関しては,自分に対する評価が低く自信がないようなことを示す項目が多く,「自分には,あまり良いところがない気がする」などの項目が含まれた。「自己抑制」に関しては,自分の考えや思いを隠すようなことを示す項目が多く,「思っていることを口には出さない」などの項目が含まれた。「他者配慮」に関しては,相手の気持ちを考え察することを示す項目が多く,「人がしてほしいことは何かと考える」などの項目が含まれた。「相手の優先」に関しては,自分の気持ちを抑えてでも相手のことを考えることを示す項目が多く,「やりたくないことでも無理をしてやることが多い」などの項目が含まれた。

 次に,仮説1を検討するために、最も利用頻度の高いSNS(TwitterかInstagramか)とSNS疲れの高低による、主観的幸福感の二要因分散分析を行った(Table 14)。主に利用しているSNSが異なれば,SNS利用の際に感じるSNS疲れの程度も違うことを考慮した。なお,Facebookの利用頻度が最も高いと回答した人の数は極めて少なかったため,今回は除外した。受動的・能動的SNSストレスイベント尺度の得点を下位尺度ごとに高群低群に分けて分析を行ったところ,ネガティブ感情の高群低群の場合にのみ,交互作用が見られた。その後単純主効果の検定を行ったところ主効果はみられなかった。これに関しては,SNSの特徴が理由としてあると考える。InstagramはTwitterよりも後にサービスが始まったSNSであり,主な利用のされ方も違っている。文章が中心で様々な内容であったTwitterとは違い,Instagramでは友人との写真や充実した日常などのプラスな印象の内容が投稿されることが中心である。筆者の周りを見ても,流行や,他者からどう思われているかに特に敏感な人はTwitterよりもInstagramを中心に利用していることが多いと感じている。そういった人は他者から見られている自分を強く意識しているためSNS疲れの傾向も高くなると同時に,普段から他者からの反応や評価を過剰に気にしながら過ごしていることから,主観的幸福感が下がると考える。以上のことから,仮説1は一部支持されたと言える。



back/next