5. 特性について
5-1.向上心が自尊感情に与える影響
広田・望月(2008)では,対人関係や性格や行動,恋愛などの領域は自らの能力として意識され,他者と比較されることが多く,その結果劣等性を生じさせやすいことが示唆されている。部活やサークルといった集団も,様々な性格や考え方を持つ人物が集まるため,対人関係において他者との比較はあるのではないかと考えられる。特に,役割を与えられる・与えられないというのは他者と比較したときに明確に出る違いであるため劣等性との関連も考えられる。このように,広田・望月(2008)の研究においては,劣等性を取り上げているが,今回は特性の一つとして,向上心を取り上げていく。遠藤・星山・袴田・安田・下川・布施・伊藤(2008)の研究によると,スポーツ場面における自己への期待・感情の抑制・相手に対する思いやり・公正に戦うことなどのスポーツマンシップに代表されるような規範態度である“スポーツ行動規範”というものが存在する。この尺度は合わせて3つの因子から構成されており,そのうちの一つである「向上心」は自尊感情を向上させる要因となることを明らかにしている。この研究におけるスポーツ行動規範尺度の質問項目は,実際にスポーツを行う際の回答者の考え方や行動に関するものであった。しかし,スポーツだけではなく,文科系などの部活やサークルといった集団に焦点を当てながら,向上心や他者志向的動機などの様々な要因による自尊感情の変化に関する研究は行われていない。
したがって,本研究では,スポーツに限らず文科系も含めた,部活やサークルといった“集団”という大きなくくりで見た際の,個人が持つ向上心に関する特性と自尊感情の変化との関連について検討していく。特に,本研究においては,役割の有無と個人の向上心に関する特性,他者志向的動機と自尊感情との関連について検討を進めていく。
←back/next→