1.はじめに
近年,他者からの期待を苦にする子どもの存在が指摘され,親の期待が引き金となった少年犯罪なども報告されている。犯罪白書(2018)では,少年犯罪は減少傾向であるが,少年による家庭内暴力が年々増加していることが報告されている。その原因の一つとして,親の期待が挙げられている。子どもに過大な期待をする親や,期待に応えないと愛情を与えない親が存在する。最近の子どもたちは,塾や英会話など親から押し付けられた習い事で毎日忙しく,大きな期待をかけられている場合が多い。期待に応えようとする反面,「期待に応えられるのだろうか」といった不安やプレッシャーも感じるだろう。習い事に忙しい子どもは友達と遊ぶ時間もなく,リフレッシュも出来ない。イライラや不安がどんどん蓄積され,その結果として少年犯罪として表れてしまうと考えられる。
その例として,2006年に起きた奈良自宅放火母子3人殺害事件がある。この事件は16歳の少年が自宅に放火し全焼させ,母と弟妹を焼死させた。少年は父と同じ職業である医師になることを強要されており,父の期待に応えて医師になろうとする気持ちと,学校の試験の成績が父の要求よりも低いと身体的・精神的な虐待を受けることに苦痛や恐怖や屈辱を感じる気持ちの,両方の感情を抱いていた。成長するにつれて苦痛や恐怖,屈辱が大きくなり,「すべて壊して逃げ出したい」という感情により,自宅に放火したとされている。このように時として親の期待は悲惨な事件までも引き起こしてしまう。
next→