2.親の期待


田中・小川(1981,1982)は,親の職業継承期待が子どもの職業継承過程にどのように影響を及ぼすのかを検討し,親の職業継承期待と子どもの継承行動や継承希望には関連があることを明らかにしている。河村(2003)は,高校生を対象に青年が認知する親からの期待と青年の完全主義傾向がどのように関連するか,そして心理的距離の違いによって親の期待と完全主義傾向との関係に差があるのかについて検討している。その結果,心理的距離にかかわらず,親からの期待の高さが子どもの完全主義傾向を高めることを明らかにしている。また,成績に対する親からの期待を過剰であると感じている青年は,学業不安や抑うつ傾向,攻撃性が高くなることも指摘されている(Crystal,Chen,Fuligni,Stevenson,Hsu,Ko,Kitamura & Kimura,1994)。Bruch(1978)は思春期における神経性やせ症の事例に共通してみられる特徴として以下のように考察している。「子は全生活において家族の期待に添った行動をとりたいと思い,いつも他人に比べて劣らないかと心配し,そのために失敗してがっかりするのを恐れる。この満たされない気持ちが思春期のやせ症の核心的問題である」と述べている。臨床現場においても,親の期待は子どもにとって大きな問題になると言える。子どもは親の期待するような子どもになろうと頑張るが,親の期待が負担になってしまう可能性があると言えるだろう。


 しかし,期待の悪い面だけではなく,期待の親の良い面も報告されている。木澤(2004)は,思春期の子どもを対象に,親の期待が子どもの行動にどのように影響を与えているのかについて検討している。その結果,親に期待されていると感じている者の方が,期待されていないと感じている者よりも勉強に自信を持っており,学校生活も楽しんでいる傾向が高いことを指摘している。他にも,期待を肯定的に捉えていると自尊感情が高まること(春日・宇都宮,2011)など親の期待が適応的な役割をもっていることが報告されている。春日・宇都宮(2011)は,親の期待に対する否定的な感情や行動はその肯定感を低め,自尊感情を低めるのに対して,親の期待に対して肯定的な感情や行動はそれらに対する肯定感を高め,自尊感情を高めることを示した。つまり,期待はプラスにもマイナスにも働くと言えよう。では,どのような場合に期待はプラスに働き,どのような場合にはマイナスに働くのだろうか。

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