3. 期待の受け止め方
渡部・新井・濱口(2012)は,新しい期待認知の観点として親からの「期待の受け止め方」に着目し,中学生を対象に期待の受け止め方と内的適応との関連を検討している。期待の受け止め方とは,「期待されることに対する認知・感情・評価・期待に対する志向性(期待に沿おうとする気持ち)を含んだ子どもの受け止め方」と定義されている(渡部ら,2012)。本研究でもこの定義に基づいて検討していく。渡部ら(2012)の研究では,期待されることをポジティブに受け止める「積極的受け止め」は,自己価値を高めることが確認されている。しかし,期待されることをネガティブに捉える「負担的受け止め」と,期待されるとがっかりさせたくないと感じる「失望回避的受け止め」は,ストレス反応を高めることが明らかにされている。期待の受け止め方は,このように外的適応と内的適応を分けて予測することができる。またこの研究では,期待を感じている程度よりも期待の受け止め方の方がストレス反応に対する影響が大きいことが示唆されている。したがって,どれだけ期待をされているかということよりも,子どもが期待をどのように受け止めるかということが重要になると言える。
渡辺・新井・濱口(2014)は,中学生を対象に期待認知における,「期待を感じている程度」,「期待の受け止め方」,「期待への行動結果に対する親の反応予期」の3つが,適応行動や不適応行動にどのように影響を及ぼしているのかを包括的に検討している。「期待への行動結果に対する親の反応予期」とは,子どもが親から感じている期待に背向いたときに親がどのような反応や感情を示すと予期しているかという,子ども自身の認知である。その結果,3つの中では期待の受け止め方が,外的適応に対して最も説明力を持っていることが明らかとなった。このことから,期待がどのように働くのかを説明するものとして,期待の受け止め方が最も重要であることがわかる。そのため,本研究でも期待の受け止め方に焦点を当てていく。
期待を積極的に受け止めた場合,期待は励みになりサポートになる。しかし,期待を負担に感じると,プレッシャーになる。期待がどのように働くかは本人の受け止め方による。どのような場合は積極的に受け止め,どのような場合は負担に感じるのだろうか。本研究では,期待の受け止め方に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする。
渡部・濱口(2010)は親からの期待の受け止め方に影響を及ぼす要因について検討し,自己決定意識が親からの期待の受け止め方に影響することを明らかにしている。また,親子の信頼関係が,期待の受け止め方に影響を及ぼすことも明らかにされている(渡部・新井・濱口,2010)。春日・宇都宮・サトウ(2014)は,大学生を対象に大学入学以前に親から感じた期待とその期待に対して抱いた感情や行った行動を尋ね,期待認知及びそれに対する感情・行動と,自己抑制型行動特性や生活満足感との関係を検討した。その結果,期待に対する負担的な反応が自己抑制型行動特性に影響を与え,そしてさらに期待に対する負担的な反応が高められるというサイクルの存在を示唆し,期待に反する力が重要であると述べている。伊藤(2009)は,大学生を対象に,中高における学業や親との関係,親からの期待,葛藤経験などをインタビューし,親子関係と期待経験の関連を検討している。その結果,期待を感じていても,親が自分の好きなようにさせてくれたと感じている子どもは,期待を負担には感じてないことを示唆している。
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