4.教師からの期待
子どもに影響を与えるのは親からの期待だけではないと考えられる。その一つとして,教師からの期待が挙げられる。
Rosenthal & Jacobson(1968)は,教師期待効果(teacher expectation effect)を提唱した。教師期待効果は,ピグマリオン(Pygmalion)効果と呼ばれ,児童・生徒の学業成績や学級内行動が教師の期待に沿って変化していく現象のことである。Rosenthal & Jacobson(1968)の研究以来,教師の期待に関する研究が注目されてきた。教師の期待とは「児童・生徒の現在および将来の学業成績や学級内の一般的行動に対する教師の推測(inference)」と定義されている(Brophy & Good,1974)。Eden & Ravid (1982)は,教師の生徒に対する期待は,生徒の自己期待を媒介し,学習遂行行動に影響を与えることを見出している。教師の期待が,生徒の自己期待の根源となる自己概念やモチベーションに影響を与え,その結果として教師の期待する方向に生徒の行動が変化する,といったプロセスがあることが示唆されている(Rogers,1982)。つまり,教師の期待は,児童生徒の行動に大きく影響を与えるものであるといえる。
飯田(2002)は小学生を対象に,教師の要請・児童認知や児童の教師認知が学校適応感とどのように関係しているかを検討している。教師が児童に対して持つ「こうあってほしい」という要請に適合した特性をもつ児童は学校適応感が高いこと,そして教師の要請と学校適応感との関係は児童の認知様式によって変化することを示唆している。一日の大半を学校で過ごす子どもたちにとって,教師からの期待も心理的に大きな影響を及ぼしているだろう。
しかし,親からの期待に着目した研究が多く,教師からの期待に関する研究はほとんど見当たらない。そこで本研究では,教師からの期待について検討する。教師からの期待がどのように働くかは,生徒の受け止め方によると考え,教師からの期待の受け止め方に影響を及ぼす要因について検討する。教師からの期待は,Brophy ら(1974)による「児童・生徒の現在および将来の学業成績や学級内の一般的行動に対する教師の推測(inference)」という定義を本研究でも用いる。
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