1.はじめに
誰もがわが子の誕生に大きな喜びを感じる。そして,多くの女性が出産や子育てを通して,母親としてわが子と共に成長していく。しかし,そのような過程の中で,わが子の発達の遅れや障害という困難に直面する母親もいる。
身体障害,知的障害,精神障害の3区分による厚生労働省の調査から,基本的な統計数値を掲載した内閣府(2018)の報告によると,障害者数の概数は,身体障害者4,360,000人,知的障害者1,082,000人,精神障害者3,924,000人となっている。これを人口1,000人当たりの人数でみると,身体障害者は34人,知的障害者は9人,精神障害者は31人となる。複数の障害を併せ持つ場合もあるため,単純な合計にはならないものの,国民のおよそ7.4%が何らかの障害を有していることになる。
近年では,教育現場において,インクルーシブ教育システムの構築や合理的配慮の提供など,障害のある子どもに対する様々な支援が行われている。しかし,障害のある子どもを支援するためには,子どもだけでなく,母親を中心とした周囲の人々の支援も必要不可欠なのではないだろうか。親の障害受容に関する文献的研究を行っている桑田・神尾(2004)は,近年では早期療育が進んでいるが,早期療育を進めていく過程では,対象となる子どもだけに注目してアプローチしていくのではなく,その時点での親の障害受容に関わる心理状態を考慮し,家族全体を包含した支援を提供していくことの必要性を述べている。
生まれてきたわが子に障害があるという事実は,多くの母親にとって悲しみや苦悩を与える可能性がある。田上・阿部(2013)は,幼児期の障害のある子どもをもつ母親における最初の気づきから現在までの,心理的過程や様相・特徴を明らかにするため,障害児通園施設に通う子どもをもつ15 名の母親にインタビュー調査を行った。そして,幼児期の障害のある子どもをもつ母親は,子どもの障害への最初の気づきから通園施設入園までの間,子どもの障害理解,障害をめぐる夫婦間葛藤,周囲からの指摘,困難な養育などによって,ネガティブな感情を持続しやすい状況にあることを指摘している。
文部科学省(2015)は,小・中学校における保護者の付添いは,今後も合理的配慮の提供において1つの論点となるものと考えられることから,障害のある子どもの学校生活における保護者の付添いの実態を把握するため,全国の公立小・中学校を対象に調査を行った。その結果,学校生活における付添いを行っている保護者のうち20%が,看護師が学校にいないなどの理由から保護者自身が医療的ケアを行っている。医療的ケアを伴わない付添いを行っている保護者80%に関しても,日常生活上の介助や学習支援,健康・安全確保のために学校生活における付添いを行っていることが明らかとなった。これらのことから,障害のある子どもの保護者の多くが,子どもの学校生活においても心配や不安を感じていることが推察される。
子どもの障害について告知を受けた場合,多くの母親は悩みながらも子育てに励み,自分の人生を肯定的に捉えていく。しかし,中には自分の子どもに障害があるというショックから立ち直ることができず,自分の殻に閉じこもってしまう母親もいることが予想される。このことは,母子共に危険にさらされる可能性があると考えられる。障害のある子どもの母親には,より多くのサポート提供が重要となるのではないだろうか。
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