3.ダウン症児の母親の心理的反応をポジティブにする要因

出生時から現在までのダウン症児の母親の人生経路について,これまで捉えてきた。TEM図では,喪失体験と自責の念について示すことができたが,ダウン症児の母親はどのようにそれらを乗り越えてきたのだろうか。

インタビューとTEMによる分析の結果,ダウン症児の母親の心理的反応をポジティブにする要因について,“周囲の人々によるサポート”と“子どもの成長”の主に2つことが示された。この2つについて以下で詳しくみていく。



3-1.サポート

出生以降から診断名を告知されるまでの第1期では,手術を受ける経路があった。喜ばしいわが子の誕生の瞬間が,手術の宣告によって,一瞬にして困惑や不安に変わってしまう。この時,専門家である医療者がダウン症児の母親に,どのように容体や手術について説明するかが重要となる。“ダウン症”という診断名告知を受けた2期では,ダウン症児の母親にとって周囲の人々の声かけが支えとなる。今後の子育てなどについて不安や失望を感じているダウン症児の母親に,「大丈夫」という安心感を与えるような言葉は障害のある子どもを育てていく決心に繋がる。母子通園施設などの施設に入所し,様々な人々と交流する機会のある第3期では,ダウン症児や同じようにダウン症児をもつ母親といった経験者と関わることが子育ての希望となる。さらには,ダウン症児の子育てに関する講演会や児童デイサービスといった機関の利用など主に情報的・道具的サポートが,ダウン症児の母親にとって支えとなった。保育園入園以降の第4期では,「子どもを集団に入れたい」という思いが,ダウン症児の母親の行動を促進させた。小学校入学以降の第5期では,学校の教員の能力がダウン症児の母親の安心感へ繋がった。少しずつ卒業後の進路も考え始める中学校入学以降の第6期・第7期では,夫を中心とした家族や地域の人々といった周囲の協力がダウン症児の母親にサポートを与えた。



3-2.子どもの成長

 ダウン症児の母親の心理的反応をポジティブにする要因として,サポートの他に“子どもの成長”が挙げられた。子どもが歩けるようになったこと,母子分離ができたこと,付き添いなしで登下校できるようになったことなど子どものひとつひとつの成長が,ダウン症児の母親にとって大きな喜びとなっていた。そして,その喜びがダウン症児の母親の子育ての意欲へと繋がっていた。また,子どもからの何気ない言葉や存在自体がダウン症児の母親の心情をプラスにした。


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