5.ダウン症児の母親の障害受容過程

ダウン症児の母親は,診断名告知後に失望や恐怖,不安などを強く感じるが,周囲からの声かけによって安心感を得ることができた。しかし,辛い治療期間やきょうだいの将来の心配,周囲からの視線によって喪失感や自責の念を感じるという葛藤を繰り返していた。ダウン症児の母親は発達の節目ごとに,様々な手段を用いて子育てに関する情報を収集していた。集団の中に入り,多くの人々と交流することはダウン症児の母親の孤独感の軽減に繋がったが,他の子どもとの比較がダウン症児の母親に苦難を与えることもあった。喜ばしいはずの小学校入学や中学校入学などの際には,子どもに最も適切な環境を与えるために,ダウン症児の母親が入学先を悩む姿が捉えられた。学齢期では,ダウン症児の母親にとって,教員による評価的サポートが有効的であった。しかし,学齢期を過ぎてからはダウン症児の母親は,必要な情報の少なさから子どもの将来への不安を感じており,新たな悩みと向き合っていた。困難に直面しながらも,周囲からのサポートを得ることによって,ダウン症児の母親はこれまでの人生を肯定的に意味づけていた。

ダウン症児の母親の心理的反応をポジティブにする要因について,主に2つのことが示された。1つ目は,周囲の人々によるサポートである。ダウン症児の母親は,夫を中心とした家族や地域の人々,学校の教員や各専門機関によってサポートを得ることで子育ての意欲を促進させていた。また,子育てに関する情報や物理的な援助,心情をプラスにする声かけや評価というように,各時期によってダウン症児の母親が求めるサポートの内容にも違いがあった。2つ目は,子どもの成長である。発達がゆっくりであるダウン症児の母親にとって,子どもの小さな成長ひとつひとつが喜びとなり,さらにその喜びが糧となっていた。他の子どもと自分の子どもを比較することは,ダウン症児の母親にとって自責の念に繋がるものであったが,時に他の子どもとの比較がダウン症児の母親の気持ちをプラスにすることがあった。


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