総合考察
5. 全体を通しての考察
本研究では,まず状態自尊感情,特性自尊感情の高低で調査対象者を4群に分け,群ごとの特徴を調べた。その結果,4群ごとに見られる発話の特徴や雰囲気は全く異なったものであった。状態自尊感情高・特性自尊感情高群では自分と性格や考え方が違ってもお互いを尊重して関われる傾向があった。,状態自尊感情高・特性自尊感情低群ではもともと落ちついた人柄の人が多いが,自分より明るい性格の友人には無理なく調子を合わせて関われる傾向にあった。状態自尊感情低・特性自尊感情高群では心を開いている友人にははっきりした口調で話すが,そうでない人には控えめな態度を取る傾向にあった。状態自尊感情低・特性自尊感情低群では,他の群の人より友人関係の中で悩みが生じやすく,またそれを他の友人にもなかなか言うことができない傾向にあった。
また,上記の4群とセルフ・モニタリング傾向の関連について検討した結果,状態自尊感情高・特性自尊感情高群においてセルフ・モニタリングが高い傾向にあった。その後,インタビューの中での発話傾向と自尊感情との関連について検討した。その結果,調査対象者の中で6つの切替のスタイルがあることが明らかになり,その中で『相手の性格・行動に合わせる群』,『相手の性格・行動と逆にする』群,『相手の反応をわきまえた上で気にしない』群は状態自尊感情,特性自尊感情ともに高いことがわかり,『相手に嫌われたくない,悪い部分を見せたくない』群,『相手の反応をそもそもあまり考えていない』群,『仲の良い友人には全員素』群は状態自尊感情,特性自尊感情ともに低い傾向にあることがわかった。大谷(2007)は,『状況に応じた切替』について状況に応じて複数の関係対象を切り替える「対象切替」,複数の自己を切り替える「自己切替」,複数の関係の相互隔離「関係の相互隔離」の3つを示している。しかし,本研究ではインタビュー調査により実際の大学生の友人関係の中ではさらに多くの切替スタイルがあることが明らかとなった。
また,自分にとって良いことが起こったとき,また友人に対する悪感情を感じたときにどう対応するか尋ね,その回答内容と自尊感情の関連も調べた。その結果,良いことが起こったときと友人に対する悪感情を感じたときでは自尊感情との関連の仕方に大きな違いが見られた。良いことが起こったときは,『全員に話す』群が状態自尊感情,特性自尊感情ともに高かった。さらに,男女差と自尊感情との関連についても検討した。その結果,男女でコミュニケーションスタイルに大きな違いが見られ,また,自尊感情に関しては男性の方が高いことが明らかとなった。一方,友人に対する悪感情を感じた時では,良いことが起こったときとは対照的に,『全員に話さない』群がもっとも自尊感情が高く,『全員に話す』群が最も自尊感情が低かった。
さらに,男女差と自尊感情との関連,そして男女差による発話傾向の違いを検討した。自尊感情は,状態自尊感情,特性自尊感情ともに男性の方が高い傾向にあった。また,発話傾向では,男性は「面白さ」をより求め,女性は「共感,納得」をより求める傾向にあった。また,質問項目3, 4の回答の仕方の違いについて,3は女性の方が男性よりもより細かい自己切替をしながら伝える傾向にあり,4では男性よりも女性のほうが他人に対する悪感情について友人により話す傾向にあった。
自尊感情が高い群ではセルフ・モニタリングも高いという結果であったが,インタビューの発話傾向とセルフ・モニタリングの関連を見ると,『相手の性格・行動に合わせる群』,『相手の性格・行動と逆にする』群,『相手の反応をわきまえた上で気にしない』群は状態自尊感情,特性自尊感情ともに高い傾向にあるという結果であった。これらは,両者ともに自尊感情が高い人はセルフ・モニタリングも高い傾向にあることを示していると考えられる。これらより,実際の友人関係の中で,自尊感情が高い人は友人関係の中での自分にも本来の自分にも自信を持っており,その自信が,友人関係の中で自分を押し殺さず,かつ様々な人と良い関係を築いていけるという自信につながっていると考えられる。この自信が,日頃より相手の行動や気持ち,自分への反応を意識した上で接する態度を細かく変える自己切替につながっていると考えられる。また,質問項目3で自尊感情が高い人の方が低い人よりも自分に起こった良いことを友人に伝える傾向にあり,質問項目4では自尊感情が高い人は低い人よりも友人への悪感情を友人に伝えない傾向にあった。一方,男女差との比較の中では,男性は女性よりも自尊感情が高い傾向にあり,男性は女性よりも自分に起こった良いことを友人に伝える傾向にあった。これらは,自尊感情が高い人は友人に良いことを伝えるという部分で一致が見られる。よって,男性の方が自尊感情が高いため,人に良いことを伝え,悪いことは友人に伝えない傾向にあるのではないかと考えられる。
本研究では,友人関係の築き方,またその中での自己切替の仕方は自尊感情の高さによる差があったが,セルフ・モニタリング,性差によっても違いがあることがわかった。大学生は男女含めて様々な場面で多様な関係性を築いていく時期であり,その中で良い友人関係を築くための自己切替の仕方は違うことが明らかとなった。色々な場面で関係を築かなくてはいけない大学生だからこそ,友人に合わせたり,自分の意見をしっかり述べたり,時には友人に流されたり考え方が合わない友人との関係に深入りしなかったりなど,自分になるべく負担をかけず,かつできるだけ良い関係を築ける自己切替を,それぞれ違う形で行っていることが考えられる。
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