総合考察


4. 性差と自尊感情,自己切替の関連について

4−1. 性差と自尊感情との関連について

 さらに,自尊感情と,インタビューの中での発話傾向は男女によっても差が見られた。自尊感情については,状態自尊感情も特性自尊感情も男性の方が高い傾向にあった。これは,男性よりも女性の方が友人関係の中で仲間意識が強いことが要因ではないかと考えられる。友人グループの中で少しでも他の人と違う行動をすると周りから「変わり者」と思われたり,関わりを避けられたりといったことが日常茶飯事である女性の方が,「友人と上手くやっていきたい」「嫌われたくない」と感じる機会が多くなるため,このような結果になったのではないかと考えられる。

4−2. 性差と発話傾向の関連について

 また,発話傾向については,男性はコミュニケーションの中でより「面白さ」を求め,女性は「共感・納得」を求める傾向にあった。このことは質問項目3, 4の回答内容にも影響を及ぼしたとみられる。友人とのかかわりを尋ねた中で,男性は相談事や悩みなどいわゆる「重い内容」を友人との中で話題にすることは少なく,話すとしてもさらっと言ったり,面白おかしくしたりなど「ネタにして」伝える,といった回答が顕著であった。一方女性は相談事や悩みがあるときは友人に積極的に伝える傾向が高く,またそれを「深刻な感じ」で伝えることで友人に共感や納得を求める,といった回答が顕著であった。小谷田(2018)は,青年期の友人関係は特に女子において,自分を抑えたりするのではなく,気がかりを伝えたりするなど,思い悩むだけではなく行動に移していくことが友人関係疲労感を下げ,友人関係満足度を高めることにつながる可能性を示唆している。本研究でも,男性より女性において自分の悩みや気がかりを友人に伝える様子が見受けられ,女性はそのような形でより深い友人関係を築こうとしているのではないかと考えられる。また,森田・井上(2014)は,自己開示の抑制における性差について「男らしさ」「女らしさ」という伝統的な性役割観の観点から考察している。具体的には,男性の方が女性よりも,たとえ相手が親しい同性の友人であったとしても,頼らずに頑張れる,ストレスや悩んでいることは自分で解決できるなどの自己解消の気持ちや,自分の悩んでいることやつらい体験はたとえ話したとしても何も変わらない,わかってもらえないというあきらめの気持ちがあるため,それが自己開示の抑制の原因につながっていると示唆している。本研究でも,男性の方が女性よりも友人に関する悪いことは他の友人にも言わないという傾向が顕著に見られた。これより,男性のほうが女性より自分の悩みや相談事を他人に深刻に話すことは少なく,できるだけ自分で解決しようとする傾向にあるのではないかと言える。



back/next