1.はじめに


 人は生きていくなかで時に深刻な心理的苦痛を伴う体験をすることがある。死別や別離による重要な他者の喪失,災害,重い疾患や挫折,いじめや失恋。これらは多くのストレスを与え,ネガティブな感情を伴わせることから「ストレスイベント」「ネガティブイベント」などと呼ばれる。ストレスイベントによる精神的な後遺症は特に心的なトラウマ(外傷)と呼ばれ,トラウマが慢性化することで外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder;PTSD)を生じる危険性もあると言われている(瀧井・上田・富永,2013)。例えば2011年に起きた東日本大震災では,震災というストレスイベントがトラウマとなり,多くの人がPTSDを発症した。震災に関連すると見られる自殺者は2015年までに162名(自殺統計,2015)となり,注目が集まった。このようにストレスイベントは私たちの心身に負の影響を与えることは自明である。  
しかし一方で,「困難な出来事を乗り越えることによって人は成長する」という見方もできる。例えば,Affleck & Tennen(1996)は「逆境からの利益」に着目し,極めて強いストレスを受けた後,その出来事を経験したことでむしろ成長するという事例を複数報告している。飯村(2016)はPTSD研究が阪神淡路大震災などをきっかけに社会的な注目を集めた反面で,プラスの側面は未だ十分に認知されていないことを指摘している。  
ストレスイベントは日常に多く存在し,誰でも経験する可能性がある。人はひとりでは生きていけない,としばしば言われるように我々は助け合って生活をしている。他者からのサポートを要するのは,困難な体験をした際も例外ではないだろう。



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