3.精神テンポ
3−1. 精神テンポとは
テンポや音の高さが心地良いと感じる音楽である場合,音楽は作業に良い影響を及ぼ
すのではないかと述べてきたが,心地の良い音楽のテンポとはどのようなものであるの
だろうか.心地の良いテンポとして,散歩しているときの歩くテンポ等が考えられる.話す
ことや歩くこと等日常の生活行動において,特に制約のない自由な表出事態で自然に表
出される個人特有の速さのことを精神テンポと言うと杉之原・平・武藤・今若(1993)は
述べている.このような,精神テンポを測る際,市川・岩永(2011)はタッピングを行わせ,机
を叩くスピードを測定している.また,園畠・宮谷・尾形(2014)は歩行速度によって測定し
ている.これらのことから,体を動かさずに行う実験を考えた場合には,1 分だと思うタイ
ミングを被験者自身に数えさせ,1 分だと思うタイミングで手を叩かせることで,精神テ
ンポを測ることができるのではないと考えられる.
3−2. テンポの速さについて
心地が良いと感じるには精神テンポと音楽のテンポはどのような関係が望ましいのだ
ろうか.園畠ら(2014)は精神テンポのことを,内的テンポと捉え,外から聞えてくるテンポ
を外的テンポとしてこれらのテンポによるポジティブ感情への影響について検討してい
る.内的テンポと外的テンポの不一致はポジティブな感情を弱める効果がある可能性が
あると述べている(園畠ら,2014).園畠ら(2014)は,内的テンポとして歩行のスピード,外的
テンポとしてメトロノームを聞かせている.このことから,外できいた音楽と内的テンポ
は同じである方がポジティブな感情を強められると言えるのではないだろうか.
また,テンポに着目した研究として,市川ら(2011)はいらいらしている際,精神テンポと
同テンポの音楽を聴くと効果的に気分を改善することができる可能性を述べている.ま
た,精神テンポと同程度のテンポの課題の進め方である場合,エネルギーは最小限になる
と述べている.これらのことから,自らの精神テンポと同じテンポを聞いた時,ポジティブ
感情が喚起されることと,行動に影響があることが考えられる.
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