4.楽観性


4−1.楽観性とは

 音楽を聴く事によって,ポジティブな感情が喚起される可能性があることを示してき たが,外山(2013)はポジティブな感情の高揚を予測する因子として,楽観性を挙げている. すなわち,楽観性が高い場合,ポジティブな感情を生起しやすいと考えることが出来る.楽 観性とは「物事がうまく進み , ,悪いことよりも良いことが生じるだろうという信念を一般 的にもつ傾向」と定義される(戸ヶ崎・坂野,1993).このことから,音楽の影響を受けやす いパーソナリティとして楽観性が関わる可能性があると考えられる.
 楽観性と対極的に考えられるものとして悲観性が挙げられるが,楽観性の高さは,精神 的健康を回復する働きがあり,同じ意味に捉えられやすい悲観性の低さは,ストレスフル な出来事を体験した直後にそれに伴うネガティブな感情を抑制する働きをすることから, 悲観性と楽観性はそれぞれ役割が異なることが示されている(外山,2013).これより,楽観 性の対極は悲観性ではないことが考察されている.楽観性のみに絞ることで,どの特性に よる影響であるかをより明確に出来るのはないだろうか.
 また,佐藤・安田(2001)は,ポジティブ感情とネガティブ感情を対極にあるものとして検 討し,日本語版 PANAS 尺度を作成した.この尺度は実験室状況で容易に使用できる気分 評定のものであり,ポジティブ感情が喚起されるかどうかについて検討するためのもの である.また,対極にあるネガティブ感情についても測定することで,ネガティブ・ポジテ ィブ感情の持ちやすさについても検討できると考えられる.音楽を聴くことでポジティ ブ感情が喚起されるのであれば,ネガティブ感情は対極にあるため,低下するのではない かと考えることが出来る.

4−2.楽観性とパフォーマンスについて

 辛島ら(2012)は,作業前に音楽を聴くことで,ポジティブ感情が喚起されることを示し ている.さらに,それと共にパフォーマンスが上がることも示している.つまり,音楽を聴く ことでポジティブ感情を喚起させることは作業に影響があると考えることができる.また,ポジティブ感情を喚起しやすいと考えられる楽観性が高い人は,ストレスフルな状況 に陥った際,状況が統制不可能であると知覚すると,現実を受入れる傾向が高いため,問題 を回避しない傾向が高いことが示されている(Scheier,Weintraub&Carver,1986).これは, 内藤(2012)も同様に述べており,楽観性の高い人は統制不可能な状況で逃げ出さずに努 力によって立ち向かうことを選択すると示している.また,渡辺・長谷川(2017)は,楽観性 が高いと,重要度の高い場面では肯定的解釈が積極的に用いられるが,重要度が低い場合, そこまで用いられないことを示した.これらのことから,楽観性は作業パフォーマンスに影響を与えると考えられる.



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