1.はじめに


 現代ではたくさんの音楽に溢れ,日常生活の中で,音楽を聴くことを意識せずとも,ショッピングモールや飲食店等,多くの場所で BGM(Back Ground Music)として自然と耳に することが多いのではないだろうか.これらの音楽は会話や食事等を妨げず,背景音楽として存在している. しかし,意識してみると,外出先で音楽が聞こえない時間はあまりないのではないだろうか.さらに,近年では,携帯の普及によって You Tube のような動画サイトがより身近になり,「作業用 BGM」として BGM と言う言葉を目にすることが多く,実 際に家の中であっても音楽を聴きながら食事や家事をする人も増えているのではないだろうか.これらは,本当に作業への影響があるのだろうか.
 ベネッセの調査(2015)によると,音楽を聴きながら勉強する割合は,中学生 53.5%高校 生 69.2%と多くの学生が「ながら勉強」をしている事が分かる.ベネッセ (2016)は音楽を聴きながら勉強することについて特集しており,ここでは,メリットが 4 つ示されている.気分が高揚し勉強が楽しくなること,リラックスして勉強出来ること,集中力や記憶力が高まる場合があること,雑音をシャットアウトすることの 4 つが提示されていた.しか しながら音楽は,行動を促進するだけではないのではなく,ベネッセ (2016)は,音楽の種類や状況では集中の妨げになってしまうことを述べており,暗記する内容である場合,音楽を聴いてしまうと他に多くの情報を受け取らなくてはいけなくなってしまうため,音 楽を聞きながらする勉強は適さない可能性があると述べられている.それでは,音楽によって妨げられる行動とはどんなものがあるのだろうか.
 また,音楽によって影響を受けるのは行動だけではないだろう.例えば,試合前に音楽を聴く姿や,失恋したときに音楽を聴く姿をよく見ることがある.これは気分を高めるために音楽を聴いたり,気分を変えたい時に聴いたりする事が多いということなのではない だろうか.荒川静香選手・羽生結弦選手(フィギュアスケート)や宮崎大輔選手(ハンドボール)は大会の本番直前に好きな音楽を聴くことで精神コントロールを行っていたことが知られている.小島(2015)は,アスリートはパフォーマンスを高める手段として習慣的に 音楽を利用していることが多く,音楽がスポーツパフォーマンスに関係しているのではないかと述べている.このことから,本番前に自分の気持ちを落ち着けたり鼓舞したりする時に好きな音楽を利用すると良いと考えることができる.
 好きな音楽というのは,それぞれの人によって違うだろう.音楽には,ポップス(邦楽・洋楽),ロック,ジャズ,ヒップホップ,アニメ,演歌,クラシック等多数のジャンルが存在する. ベネッセ(2016)は,勉強の時にもし音楽を聴くのであればクラシックを勧めている.クラシックは歌のない音楽であり,リラックス効果が期待できるためだと示されている.カフェなどでもよくクラシックは耳にすることがあり,不快感を感じる人が少ないことが考 えられる.つまり,クラシック音楽を聴くと心地よいと感じるのではないだろうか.
 さらに,好きな音楽といえば歌詞やテンポの速さなど音楽の様々な要素が関わってくるのではないだろうか.クラシックで考えると歌詞はないため,音楽の高さやメロディー ライン,テンポの速さ等により好みを判断していると考えられるが,テンポの速さに人の好みはあるのだろうか.
 また,ランニングをするとき,音楽を聴きながら行う人が多いように感じる.走る速さと同じような速さの音楽を聴いているという話しを耳にすることがある.音楽を聴いてい る時ついその音楽のテンポに動きを合わせてしまうという行動は,テンポが速すぎても,遅すぎても起こらないと述べられている(関,2019).ランニングで考えると,速すぎる場合, テンポに合わせようとしても足が回らなかったり,遅すぎるとテンポ良く 1 歩 1 歩が踏み出せなかったりするためにつられないテンポが存在すると考えられる.また,人によって 合わせたくなるテンポが違うことも考えられる.このテンポの違いはどのように生まれるのだろうか.また今までのことから,音楽による影響とは,テンポによって影響に違いが あると考えられるが,人の性格によっても影響のされやすさは違うのではないだろうか.
 音楽を聴くことで行動がはかどる・はかどらないの違いには,影響されやすい行動とともに影響されやすい性格もあるのではないだろうか.様々な論文で音楽による影響につ いては書かれているが,音楽に影響されやすい性格について書かれているものはあまり目にしない.
 これらのことから,音楽の有無やテンポの速さによる違いが単純作業に及ぼす影響について,影響されやすい性格があるかどうかについてが研究の課題として考えられるの ではないだろうか.



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