考察


8. 行為後悔の意味づけ過程における後悔直後の反すうが外傷後成長前の反すうに与える影響


 行為後悔直後の意図的熟考・侵入的熟考から外傷後成長前の意図的熟考・侵入的熟考へ与える影響を検討するために, 共分散構造分析を行った. その結果, 十分な適合度が得られなかったため, 仮説モデルが適切ではなかったと判断した. よって, 行為後悔における「後悔直後の意図的熟考・侵入的熟考」から「外傷後成長前の意図的熟考・侵入的熟考」へ与える影響について明らかにすることは出来なかったため, 仮説Aについては明らかにすることが出来なかった. 行為後悔は, 非行為後悔と比べて合理化されやすく, 想起されにくい(Gilovich & Medvec , 1995). 本研究における調査では非行為後悔と行為後悔にフォームを分けて質問を行った. そして, 行為後悔に関する質問フォームでは, “「○○しなければよかった」と思った出来事について記述してください”という教示文を用いることで, 想起されにくいとされる行為後悔について想起させている. そのため, 行為後悔を感じ始めた当時にどのように「気分転換的気そらし」や「回避的気そらし」を行っていたかについてや, どのように積極的に思考して意味を見出す「意図的熟考」を行ったり, 考えたくもないことを考えてしまう「侵入的熟考」を行っていたかについて正確に想起することが困難であったということが考えられる. そのため, 後悔直後の気そらしや熟考が関連する分析において, 適切な結果が得られなかったのであろう. そして, 行為後悔は合理化されやすく, 非行為後悔のように合理化のために長期間を要さない. そのため, 後悔を感じた直後の時点と, 外傷後成長を遂げる前の時点を区別して想起させることが適していなかった可能性も考えられる. また, ストレスフルな出来事直後の意図的熟考はかえってストレスが増幅する(Folkman, 2008; Nightingale, et al., 2010)と言われているが, 行為後悔は合理化されやすいため, 合理化する過程で出来事に対するストレスを容易に低減出来る可能性が考えられる. そのため, 後悔直後の意図的熟考から外傷後成長前の侵入的熟考へ影響を与えるという仮説設定にも問題があったことが考えられる.


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