5.ゲームのなかでの欺瞞行為に対する許容について
しかし,このような欺瞞行為の特長について,ゲーム場面で具体的に見られる欺瞞行為のことを念頭に置くと,ゲーム場面と日常場面とで同様であることは考えにくい.
ゲーム場面で具体的に見られる欺瞞行為は,井上や作田が述べている通り「情報操作」や「ブラフ」,「スロープレイ」といった行為である.それらの行為は,自分にとってゲームを有利に運ぶことができる情報を相手から隠し続ける行為であること,相手の読み間違いを誘うことで相手が不利になるように誘導する行為であることが考えられ,自分の利益の保持及び不利益の回避であったり,相手の利益を阻害する行為であったりする.つまり,ゲーム場面で見られる欺瞞行為は,日常場面においてはLindskold & Waltersで最も許容されにくいとされる,利己的な欺瞞行為であるといえる.
しかし,このような欺瞞行為を,ゲーム場面では人は何の抵抗もなく行い,された方もまた受け入れているのではないだろうか.現にトランプのポーカーをやって,相手が欺瞞行為をしたからといって,ゲーム後に相手を糾弾することはしないし,自分が欺瞞行為をしても相手から訴えられることもない.またサッカーのフェイントも欺瞞行為の一つと考えられるが,フェイントをされたからといっていちいち怒る選手はいない.このことについては,ゲーム場面は多くの先行研究によって日常場面とは切り離された時空間であることが指摘されており,ゲームでの出来事がそのまま日常生活へ波及することはないため,日常場面では悪質であり許容されにくい行為であったとしても許容しやすくなることが考えられる.
よって本研究では,日常場面とゲーム場面の2つの場面において欺瞞行為の許容の在り方がどのように異なるかを,欺瞞行為の利己的・利他的な側面に着目して明らかにする.また,それらに関連する項目として,好感度や信頼度,報復度,悪質度についても同時に検討を行い,ゲーム場面と日常場面の違いを比較することで,ゲーム場面について主張されてきた「日常場面と切り離された時空間」を,実証的に明らかにしていく.
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