【問題と目的】
6.本研究の仮説


 上で述べた目的に対して,それぞれ仮説を立てる。
 
仮説1:現代の大学生の死に対する態度の構造は,死に対する恐怖や不安を表す因子や死について考えることを避ける傾向を表す因子,死を苦悩からの逃げ道とすることを表す因子等が見られる。
 
 まず,死に対する態度や死生観を測定する尺度をいくつか比較すると,死に対する恐怖や不安についての項目は必ず入っている。実際に死というテーマについて不安等はまず想起されるだろう。死を苦悩からの逃げ道と捉えるといった内容も,様々な尺度で確認される。また,澤井(2002)が言う「死にゆく者や死別した者との「関係」の忌避」である死のタブー視が存続する現代で,死について考えることを日常の中で避けるといった因子も見られると予測する。よって,仮説1を立てる。
 


仮説2:死に対する態度を喚起させることは,死について考えることと同様に,時間的態度を肯定的にする効果があり,同時に幸せへの動機づけも高める。
 
 石井(2013)と小正他(2015)の研究を比較し,期間は異なるが同様の結果が得られていることから,2つの研究に共通している「死に対する態度を喚起する」ことにも同様の時間的態度を肯定的にする効果がある可能性が考えられる。また,石井(2013)の結果に,死について考えることで将来に目標を指向するようになるとあることと,大石・岡本(2009)の結果の未来指向性が高いとレジリエンスの中の「遂行性」が高くなったことに対する考察で,目標を持つことで動機づけを高めるために「遂行性」と関連が見られたとしていることから,未来に目標を持つことで,動機づけが高まることが予想される。その動機づけの中には,自らの幸せへの動機づけも含まれるのではないだろうか。そこで,時間的態度が肯定的になると同時に,幸せへの動機づけも高まるのではないかと考える。よって,仮説2を立てる。
 


仮説3:普段から死について考えたり,身近であると感じていたりする人は,そうでない人より,死に対する態度を喚起させることで,時間的態度が肯定的になり,幸せへの動機づけも高まる。
 
 石井(2013)と小正他(2015)の研究から,青年期において死について考えることの有用性が示されている。それを普段から取り組んでいる人は,死に対する態度を改めて喚起することで,自らの死に対する態度を再認識することができ,より時間的態度や幸せへの動機づけに肯定的な影響を与えると考える。よって仮説3を立てる。
 


仮説4:普段から死について考えたり,身近であると感じていたりするかどうかと死に対する態度が相互に作用し,時間的態度・幸せへの動機づけに差が生じる。
 
 上の問題と目的のところで述べた通り,死に対する態度と時間的態度が関連するだろうということに関しては予想できる。そこに,普段から死について考えたり,身近であると感じていたりするといった死というテーマとの関わり方も影響を与えているだろうと考える。
 
 例えば,普段から死について考えたり,身近であると感じていたりする人で,死の恐怖が高いということは,「死は恐ろしいものだ」といった考えにとらわれている人であると考えられる。デーケン(1996)の死別経験による悲嘆のプロセスでも,恐怖が高い段階では未来への見通しや希望が持てないことが予測された。石井(2013)と小正他(2015)から死について考えることは時間的態度を高める効果があるとはいえるが,死への恐怖が高い場合,逆効果になってしまうのではないだろうか。
 
 また,普段から死について考えたり,身近であると感じたりしており,死について考えることを避けようとしないということは,死について考えることにマイナスのイメージを持つことなく,意図的に考えることができる人であると言えるだろう。そのため,死について質的に深いところまで考えることができる人であると推測する。石井(2013)と小正他(2015)は死について考えることが時間的態度を肯定的にすると述べたわけだが,死についてより深く考えることができる人であれば,時間的態度や幸せへの動機づけもより高いと言えるのではないだろうか。
 
 よって,仮説4を立てる。

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