1. はじめに
私たちは日常生活において家族,学校,職場など複数の集団に所属している。友人関係における集団と限定しても,複数の仲間集団に所属しているという人が多いだろう。特に,大学生では学部・学科,部活・サークル,アルバイト先,卒業した小学校,中学校や高校,共通の趣味における仲間集団などが挙げられる。吉田(2003)は,5つの大学の学部生を対象とし,友人関係について調査している。その結果によると,調査対象者数全体の87%が仲間集団に所属していると回答し,その中で複数の集団に所属していると回答したのは半数を占めた。大学生において複数の仲間集団に所属することは珍しいことではなく,ごく普通の自然なことだといえる。
また,人は多くの側面を持っており,状況に応じて相手に見せる自己の側面を意識的あるいは無意識的に選択している。安藤(1994)は,私たちはさまざまな自己の側面のうち,特定の側面を選んで「見せ」,他の部分を「見せない」ということを行うと述べている。社会心理学ではこうした行動の側面を自己呈示(self-presentation)と呼び,多くの研究者が関心を寄せている(安藤,1994;Leary & Kowalski,1990;Schlenker & Weigold,1992)。相手に応じて自分の振る舞いを変化させることはごく自然なことであり,それが意識的な場合も無意識的な場合もある。私たちは日常生活において,多くの人と関わって生活する中で,振る舞いが変化していることは多くの研究知見により分かっている。そこで筆者は,その振る舞いはどのように変化しているのかということについて明らかにしたいと感じた。また,自己を見せる相手とは他者一人に限らず,集団に対してということも含まれている。他者一人に対しての振る舞いが相手によって変化するのと同様に,所属する集団によっても自己の振る舞いは変化することが考えられる。他者に対する自己呈示は研究が進んでいる一方で,集団に対する自己呈示に焦点を当てた研究は少ない。
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