考察


2. 男女別モデルの検討

 男性においては,母親愛着不安が視点取得に負の影響,父親愛着不安が他者指向的反応に正の影響がみられた。女性は男性モデルで影響があったものに加え,母親愛着不安が視点取得に負の影響・自己指向的反応に正の影響,母親愛着回避が他者指向的反応と想像性に負の影響を与えていた。母親愛着回避は他者指向的反応・想像性に負の影響を与えていた。また共感性から愛他行動の影響については,男性モデルでは,他者指向的反応が心理的援助・不干渉に正の影響,視点取得が日常的援助に正の影響がみられた。
女性はこれらに加えて,他者指向的反応が日常的援助・不干渉に正の影響,視点取得が心理的援助・不干渉に正の影響,自己指向的反応が日常的援助に正の影響を与えていた。自己指向的反応が日常的援助に与える影響については,男女で有意な差がみられた。男性より女性の方が,親への愛着が共感性に,共感性が愛他行動に影響を及ぼしていることが考えられる。これは,辻道ら(2017)の大学生の向社会的行動および共感性,親子関係の関連を検討した研究において,女性は両親の受容性が高いと向社会的行動が多くみられることが明らかにされた。一方で,男性の向社会的行動には親子関係の影響はみられなかったことと関連すると考えられる。青年期は親に依存していた児童期から,自ら主体的に考え,責任のある自立した行動をとり始める時期であると述べている(村木ら,2012)。
さらに,落合・佐藤(1996)は,心理的離乳過程にある親子関係を,発達的意味を持った6つの関係性から捉え,女性では「親が子を頼りにする親子関係」「親が子を危険から守る親子関係」が高く,男性では「親が子と手を切る関係」が高いことが示された。青年期後期において,男性は,親との距離をおくような形での独立的関係が女性と比べて顕著であり,女性はより親に依存的であると述べられている(水本,2018)。これらのことから,男性より女性のモデルの方が,親への愛着が共感性や愛他行動に影響を与えているのではないかと考える。



back