考察
1. 親への愛着から共感性への影響,共感性から愛他行動への影響
1−3. モデル全体での検討
母親愛着不安・母親愛着回避・父親愛着不安は他者指向的反応に負の影響を与え,他者指向的反応は心理的援助・日常的援助・不干渉に正の影響を与えていた。また,母親愛着不安は視点取得に影響を与え,視点取得は友人関係における愛他行動に正の影響がみられた。これらにより,仮説1,3は支持されたと言える。さらに,母親愛着不安は自己指向的反応に正の影響を与え,自己指向的反応は不干渉に正の影響を与えていたことから,仮説2は一部支持された。本研究により,愛着が共感性を介して愛他行動に影響を与えることが示された。父親愛着が影響しているのは父親愛着不安においてのみであり,母親愛着不安が主に影響を与えていることが示唆された。母親からの愛着が影響している理由として,母親との心理的距離が関連していると考えられる。丹羽(2016)の父親・母親との心理的距離と親への愛着との関連を検討した研究においては,子どもが生まれた時から主要な家事の担い手は母親であることが多く,愛着が母親との関係を元に形成されており,成長しても心理的に近しい存在であると述べられている。さらにこの研究において,母親との心理的距離が近ければ,例え父親との心理的距離が遠くても親への愛着は安定的であることが示された。これらのことから,母親への愛着が親への愛着において重要であり,共感性や愛他行動に影響を与えたことが考えられる。
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