考察


1. 親への愛着から共感性への影響,共感性から愛他行動への影響

1-2. 共感性から愛他行動への影響

 共分散構造分析の結果,他者指向的反応・視点取得から,心理的援助・日常的援助・不干渉に正の影響がみられた。他者指向的反応ができる人ほど,愛他行動をとりやすい傾向があることが示された。他者指向的反応(共感的関心)とは,他者の苦痛を自分のことのように感じて,できればそれを軽減してあげたい気持ちであり,これは愛他的傾向ともいえるものである(登張,2000)。また,援助行動の動機が利己的か愛他的かを検討する研究においては,共感的関心が高い人は援助せずに容易に逃避できる条件と逃避しにくい条件のいずれにおいても,援助の動機が愛他的であることが示された(Baston, C. D., Duncan, B. D., Ackerman, P., Buckley, T., & Birch. K., 1981)。さらに,共感的関心特性を持つ人は,向社会的行動をとりやすいということも示されている(登張,2000)。よって本研究の結果も先行研究と同様であり,他者に対して同情や配慮などの感情を持つことができるほど愛他行動をとりやすいことが示された。また,共感的関心は愛他的傾向を持つことから,愛他行動に正の影響を及ぼすことが考えられる。

永井(2012)の愛他行動と共感性の関連を検討した研究では,視点取得は心理的支え,補助・代行の愛他行動に影響を与えていた。ものを貸すなどの貸与・分与の愛他行動は単純な愛他行動であるため視点取得は影響しなかった。一方で,心理的支えや補助・代行では視点取得が影響している結果が得られ,こうした愛他行動には相手の困窮状態への共感が必要であることが示唆されている。本研究の愛他行動も,心理的に友人を支える心理的援助,友人の行動を代わりにしてあげる日常的援助,相手の状況を理解してあえて関わることを控える不干渉で構成されていたため,相手の状況を理解しようとする視点取得が必要であると考えられる。さらに,登張(2003)の研究では,気持ちの想像と向社会的行動と正の相関がみられており,相手の状況を捉えられることは,相手のためになる行いである愛他行動や向社会的行動を促進することが考えられる。

自己指向的反応からは不干渉に正の影響を与えることが示された。個人的苦痛と援助行動との関係については,個人的苦痛を感じやすい人は,他者の苦痛に接した際に,逃避しにくい条件では援助を示しても,逃避しやすい条件では援助することが少なく,援助行動に対し利己的な動機を生むと結論付けられている(Baston et al., 1981)。このことから,個人的苦痛を感じやすい人は,友人か落ち込んでいる,友人が悩んでいるなどの場面に遭遇した時に,自身が不安や動揺などを感じてしまい,関わることができないのではないかと考えられる。また,永井(2011)は愛他行動と情動的共感性の関連を検討しているが,不干渉因子は感情的暖かさと感情的冷たさ,感情的被影響性のいずれにおいても関連がみられなかった。他の愛他行動因子である心理的援助因子や日常的援助因子はそれぞれ相関がみられ,菊池(1988)で得られた結果と同様になっている。これらのことから,不干渉因子に関しては,愛他行動の一種とみなすことができるのか,さらなる検討が必要である。



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