考察
1. 親への愛着から共感性への影響,共感性から愛他行動への影響
1-1. 親への愛着から共感性への影響
共分散構造分析の結果,母親愛着不安・父親愛着不安が高い人ほど,他者指向的反応が少なくなることが明らかになった。親に対して愛着不安が高い人は,他者に近接や助けを求めたときに反応としてくれるという確信を持つことができず,必要な時に助けを求められず不安が高い傾向がある(丹羽,2005)。親以外の他者と関わる際にも同様に不安が高くなると考えられており,他者に対して否定的な感情を抱きやすくなる。こうした他者に対する否定的な感情により,他者が持つ感情に対して同情や配慮を感じることが少なくなる。他者指向的反応(共感的関心)とは,他者の体験に対する情動的反応であり,他者に関心が向いている感情である(登張,2000)。一方,愛着不安は自分自身が愛着対象にどのように受容されているかについての主観的な確信から構成されているため,愛着不安が高い個人は自分自身に焦点を当てたり,自身の利益に焦点を当てたりするという側面もある(五十嵐・吉田・鈴木,2015)。そのため,愛着不安が高い人ほど,他者指向的反応が少なくなることが推察される。
また,母親愛着不安が高い人ほど,視点取得が少なくなることが明らかにされた。愛着不安が高い人は,自分自身が愛される人間であるという確信が低く,自分自身の価値を低く見積もる傾向がある(今野・小川,2012)。また,Davis(1983)は,視点取得は自尊心とも関連があることを明らかにされている。これらより,愛着不安が高い人は,自分に対する評価が低く,自分自身を価値のある存在であると感じられないために,他者の考えや立場に立って,他者の状況をより正確に理解しようとすることが困難であると考えられる。
さらに,母親愛着不安が高い人は,自己指向的反応が高くなることが明らかにされた。愛着不安は,自己モデルとも言われ,自己についてのネガティブな信念や期待であり,主観的な確信から構成されるものである(五十嵐ほか,2015)。一方,自己指向的反応(個人的苦痛)も,他者の苦痛反応に対して,同様や不安など自己に焦点づけた感情である。これらより,愛着不安を感じているものは,自己指向的反応をとりやすくなることが考えられる。さらに,愛着不安は怒りの感情を抑制したり,コントロールしたりすることに困難さを感じることが明らかにされている(金政ほか,2017)。このことから,愛着不安が高い人は,他者が苦痛を感じている状況に出会ったとき,自身が感じるままの感情を表出することが多いのではないかと考える。
母親愛着回避においては,他者指向的反応,想像性に負の影響を与えていた。親への愛着回避が高いほど,親へ近接を求めたり,頼ったりすることを回避する(丹羽,2005)。愛着対象の作業モデルは愛着対象以外の他者へと般化されるため,友人などの他者に対しても親密性を形成しようとしないことが考えられる。このように,人と深く関わろうとしないために,他者に対して同情や配慮などの感情を持ったりすることも少なくなることが示唆される。想像性は,物語や空想の世界のことが自分に起こったらと考えることである。また,さらに空想の世界だけでなく,目の前の他者に対しても,自分がその人になったかのように想像する傾向があると考えられている(登張,2000)。想像性が高い人は,もし自分だとどう感じるかを意識するために,より鮮明に情動を体験していることも考えられる。金政・大坊(2003)は,愛着安定型の人は不安定型よりもポジティブな感情を経験しやすいことを明らかにした。愛着スタイルは,感情の経験や表出に影響があるため(金政,2005),本研究においても愛着回避が想像性に影響を与えていたことが考えられる。
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