考察


2. アーティストの分類別のファンの経験価値について

アーティストの特性によって,ファンの経験価値に違いが出るのではと考え,アーティストのいろいろな分類方法を試し,経験価値尺度のt検定を行った。経験価値の値に有意な差が見られたものを以下に示す。

2−1. グループと個人アーティストのファンの経験価値の比較

 アーティストをグループと個人に分け,経験価値尺度のt検定を行った。その結果,「投資効果」に有意な差が認められた。個人アーティストファンの方が,すべての値が高かったことから,個人アーティストのファンの方がよりライブ・コンサートに経験価値を見出していると考えられる。
 回答されたアーティストを見ると,個人アーティストには,いわゆる「ミュージシャン」が多かった。小城(2002)の先行研究より,ファンになるきっかけとして,ミュージシャンは「作品の評価」が大きな割合を占めていたことから,ファンはその「音楽性」を好きになり,ライブ・コンサートでその「音楽性」を生で触れられることに価値を感じていると考えられる。
 また,個人アーティストファンのファン対象は,言うまでもなく一人に限定され,ファンは,ライブ・コンサートにそのアーティスト一人を目的として見に行っている。それに対し,グループアーティストは,5人で構成されているものもあれば数十人で構成されているものも存在し,ライブ・コンサートの会場で一人に集中して見るということがあまりない。グループアーティストの中で,ファン対象が一人であった場合,そのアーティストを近くで見られなかったり,ファン対象以外のアーティストが目立ったりと,十分満足できるライブ・コンサートではなかった場合も考えられる。
 このことから,アーティストの音楽性に惚れて大きな魅力を感じているファンが,その対象のアーティスト一人に集中して見ることができた「個人アーティスト」の方が,全体的にライブ・コンサートに経験価値を見出すことができたと予想する。

2−2. アイドルとアイドル以外のファンの経験価値の比較

 アーティストをアイドルとアイドル以外に分類し,経験価値尺度のt検定を行った。その結果,「審美性」と「フロー」に有意な差が認められた。アイドルファンの方がすべての値が高かったことから,アイドルファンの方がよりライブ・コンサートに経験価値を見出していると考えられる。
これは,アイドルファンが,他のアーティストのファンよりもアーティストに対する思い入れが強く,ライブ・コンサートに参加する際の意気込みが強いことが要因として考えられる。
アイドルファンはアイドルに対して疑似恋愛感情を抱くことがあり(小城,2002),これはアイドル以外のアーティストファンにはあまり見られない特徴である。そして,アイドルの曲には振り付けがあるものが多く,コンサートの時に一緒に振り付けが揃えられるように,ファンは事前に振り付けを練習するなどの予習をする(徳田,2010)。また,自分の好きなアイドルの名前入りうちわといったアイテムを片手にコンサートに参加するのも,アイドルファンの特徴である(徳田,2010)。このように,コンサートにのめりこみ,アーティストや会場と一体となることで,演出,アーティストのパフォーマンス,会場の雰囲気などに心理的な価値を見出し,気持ちの高揚につながり,「審美性」「フロー」の値が高くなったと考えられる。



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