考察
1. 経験価値とファンの度合いの関係について
1-1.ファンの度合い高低群での比較
ファンの度合いを高低群に分け,経験価値尺度のt検定を行った。その結果,ファン心理尺度すべての下位尺度に有意差が認められた。中でも「投資効果」に高い値が見られ,1%水準で有意差が認められた。
この結果から,ファンの度合いによって,見出す経験価値に十分な違いが見られることが分かった。経験価値すべての下位尺度に有意差が見られたため,仮説1は支持されたと言える。つまり,熱狂的なファンほど,1つの「ファン対象」をファン同士で共有することに喜びを見出し(小城2004),積極的にファン同士のコミュニケーションを行っているということが予想される。
さらに,各下位尺度の相関を見ると,経験価値尺度の中の「ファン・コミュニケーション」とファン心理尺度の下位尺度すべてに高い正の相関がみられたため,この結果からも同じことが言える。また,「積極的ファン行動」と尺度間で高い相関を示したものは「ファン・コミュニケーション」のみであり,積極的にファン行動を行う熱狂的ファンが,より頻繁にファン同士のコミュニケーションを行っていることが読み取れる。
また,経験価値の中でも,投資効果に最も有意に高い差が見られたことから,熱狂的なファンは,参加したライブ・コンサートに心理的な価値を見出しており,チケットの価格以上の満足感を得ていると考えられる。原田(2002)は,スポーツファンを対象にしているものの,その特徴として,スポーツ観戦といった消費場所での活動だけでなく,その前の「期待」や「準備」,そしてその活動の後の「評価」や「追想」といった長時間にわたる消費活動を含んでいると述べている。つまり,ライブ・コンサートのチケット購入は,そのアーティストのライブ・コンサートへの期待も含んでおり,その期待通り,あるいは期待以上のパフォーマンスを見られたという満足感を得られており,投資効果の値が高くなったと予想される。
また,熱狂的なファンほど,ファン対象に使う金額が多いことが考えられる。ライブ・コンサートのチケット購入のみにとどまらず,CDやアルバムの購入,ライブ・コンサート参戦のための遠征旅行の手配,ライブ・コンサートの限定グッズの購入,コンサートのDVD が発売されればDVDの購入など,普段からファン対象にお金を費やしていることが予想される。つまり,ライブ・コンサートチケットの購入も,普段の購買行動と何ら変わらないスタンスで行っていることが考えられる。そのため,チケットの購入をそれほど負担に感じないのだろう。
1-2. 能動的参加者と受動的参加者の比較
能動的参加者と受動的参加者の経験価値とファン心理の比較を行うため,各下位尺度のt検定を行った。その結果,経験価値尺度の中では「サービスエクセレンス」,「ファン・コミュニケーション」,ファン心理尺度の中では「熱狂」,「目標」,「共感」,「積極的ファン行動」,「一般的ファン行動」のすべての下位尺度に有意差が認められた。ファン心理尺度のすべての下位尺度に有意差が認められ,能動的参加者の方が,すべて値が高かったことから,能動的参加者の方がファンの度合いが高いことが支持された。しかし,「フロー」の値に有意な差はみられなかったため,仮説2は一部支持されなかった。
また,経験価値尺度の記述統計量の結果より,「フロー」の得点の全体平均が他と比べても高かったことから,今回研究対象とした,ライブ・コンサート参加者のほとんどがフロー経験を味わっていたということになる。フロー経験を味わうためには,人々の能動的関与が肝要(中川,2012)なため,受動的参加者でも,能動的な態度でライブ・コンサートに挑んでいたということになる。これは,参加したライブ・コンサートのアーティストのファンでなくても,元々ライブ・コンサートに参加すること自体が好きで,アーティストにこだわらず,様々な会場に足繁く通う人が多かったためではないだろうか。本研究では,これまでのライブ・コンサート参加経験数や,ライブ・コンサートに参加すること自体の好き嫌いを問う質問項目を取り入れておらず,予想までにとどめておくことしかできないため,今後の研究の課題とする。
1-3. 受動的参加者の態度の移り変わり
受動的参加者の,ライブ前とライブ後の態度の移り変わりを見るため,「そのライブに参加した後,機会があればもう一度そのアーティストのライブに参加したいと思いましたか。」というリピーターとなる意思の有無を尋ねた。その結果,受動的参加者の全員が「はい」と答え,リピーターになる意思があるという結果になり,仮説3は支持された。
能動的参加者と受動的参加者の各下位尺度のt検定の結果を見ると,「審美性」「フロー」「投資効果」の得点に有意な差が見られなかったことから,受動的参加者が,ライブ・コンサートに経験価値(主に「審美性」,「フロー」,「投資効果」)を見出し,アーティストに興味を持ったということであろう。
←back/next→