1.はじめに


新型コロナウイルス感染症は,2019年12月に中国湖北省武漢市で初めて確認され,その後,世界各地に感染が拡大した。それに伴い,各国ではロックダウンをはじめとする様々な生活制限を含む強い感染対策を取ってきたにも関わらず,今なお完全な収束には至っていない。世界における累計感染者数は2021年12月の時点で2.7億人を超え,死者はおよそ500万人に達している。WHOは,2020年3月11日にはパンデミックとなったことを宣言し、世界各国で猛威を振るっている「新型コロナウイルス感染症」を「SARSコロナウイルス2(SARS - CoV-2)が人に感染することによって発症する気道感染所」と定義しCOVID-19と命名した。
 
日本国内においては,2020年1月15日に初めて感染者が確認されて以来,徐々に感染者が増え始めた。感染者数の増加を受けて,同年3月24日には東京五輪・パラリンピックの延期が決定された。同年4月7日には急速な感染拡大が見られ,政府は7都道府県に対して初めて緊急事態宣言注1)を発出,その後,他の自治体も同様に感染拡大が深刻であると判断し,同年4月16日には緊急事態宣言の対処地域を全国に拡大した。そして,感染拡大の収束が見込めず,緊急事態宣言を当初予定していた期間から引き伸ばしを行った。その結果,感染者数が2桁台に落ち着き,一時は感染も沈静化するかとも思われていたが,緊急事態宣言解除後,しばらくして夏には第2波が訪れ感染者数は再び増加した。そして2021年1月,首都圏,関西圏を中心に第3波が訪れ,全国では1日あたり7000名を超える感染者が連日のように報告され,医療崩壊も危惧される事態となった。そのような深刻な状況を受けて,政府は,2021年1月8日に,感染が急激に拡大している1都3県に限定して2回目の緊急事態宣言を発出した。その後,感染拡大が全国に及んでいることを受けて,さらに8つの府県を対象に新たに緊急事態宣言が発出されることになった注2)。2回目の宣言解除後,感染者の拡大が衰えず,5月の大型連休に合わせて4月25日から3回目の緊急事態宣言を発出し,その約1か月後の7月12日に4回目の緊急事態宣言を発出した。4回の緊急事態宣言発出時から,日本でも医療従事者を除く民間人に対する新型コロナウイルスワクチンの接種が始まり,2021年12月初旬の段階では必要回数のワクチン接種率が約80%に到達した。そのせいか新規感染者数は減少傾向にあるが,依然として重症者や病院に入院することができず,自宅待機を強いられている人がいるという現状があり,特に医療現場はいまだ危機的状況を脱したとは言い難い。ワクチン接種を行った人々も引き続きマスクの着用や手指消毒など感染対策に努めていかねばならない状況であり,新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前の生活に戻るのにはまだかなりの時間を要すると考えられる注3)。
 
そんな中,全国の大学では,各大学の感染拡大防止に関する方針の下で,20202年4月以降,多くの学生が厳しい自宅待機や移動の制限が行われている。また2021年度になって登校,対面の授業を受けるようになっても再度感染拡大の防止に努めるよう強く求められている。しかし,緊急事態宣言期間中,マスメディアなどの報道では,宣言下で10~20代の若者が不用意に外出することで,それが感染拡大の要因となっていると繰り返し指摘がなされていた。これは,新型コロナウイルス感染症に感染したとしても高齢者に比べて症状が軽い,あるいは無症状ですむ可能性が高いとされる若者が,長期間の自粛生活や度重なる緊急事態宣言及び,まん延防止措置を受けて「自粛疲れ」や「自粛慣れ」といった状態に陥り,新型コロナウイルス感染症や緊急事態宣言に危機感をあまり感じなくなってしまうこと,そして飲食店で騒いだり,お酒を飲むことができない代わりに,「路上飲み」と呼ばれる,道や公園,広場などの公共の場で集まっていることや,緊急事態宣言地域やまん延防止措置適応地域に在住する人が,それらに該当しない他県に外出を行っていることが問題として取り上げられている。
 
しかしながら,すべての学生や若者がこのような行動を取っているわけではない。「Do Our Βit学生プロジェクト」(2020)による大学生の行動変容を明らかにするために2020年4月にインターネット上で行われたアンケート調査によると,学生の危機意識は,2020年1月から4月にかけてむしろ向上がみられる。発症時の対応について「説明できる」と回答した人は1月の時点では10%であったが,4月には70%に増加していた。また,予防行動については手洗い(98%),マスク(94%),うがい(81%),であり,三蜜を避ける行動を実施している割合は90%と高かった。自粛期間中に「外出していない」(40%)という回答も多く,自宅待機を順守している学生も存在している実態が明らかになった。若者がコロナに対して何も対応していないわけではないことがデータ上でもあきらかになっている。こうした若者のコロナウイルス関連の主な情報の獲得経路は,ニュース,Twitter,LINE等で,学生はメディアのほかにSNSも駆使しながら,新型コロナウイルス感染症に対する情報を収集しており,そこから感染対策を講じていると考えられる。
 
筆者が在学する三重大学でも,新型コロナウイルス感染拡大を受けて,講義や実習等の教育活動を原則オンラインで実施することや,学生もやむを得ない対面での教育活動以外で原則登校禁止となり,コロナ禍以前のように学生がキャンパス内で自由に過ごすことはなくなった。やむをえない登校をする際には,登校の2週間前からの体温や体調,行動履歴を記入して提出することが義務付けられた。また,2021年5月に通達された,課外活動における感染予防基本対策には,課外活動を行うにあたっての注意点が記載されており,所属するメンバー間において集団での飲食や娯楽,宿泊を伴う遠征や試合,公演を行わないことやなるべく少人数で距離をとって活動するなど,課外活動にはかなりの制限が設けられた。本学では7月から職域接種が始まり,全国的にみてもかなり早い段階で大半の学生および職員がワクチン接種することができたことから,国や県の感染対策レベルに合わせて段階的に対策のレベルを落とし,学内にも学生の姿がみられるようになった。12月の段階で,会食・緊急事態宣言及び蔓延防止措置が発出されている地域への移動・カラオケを避けるほか,許可された一部の対面活動が可能となってる。しかしながら,宿泊を伴う遠征や大人数を伴う会食や宴会はいまだ認められておらず,学生たちはコロナ禍以前のように伸び伸びと大学生活ができているとは言い難い状況である。
 
注1)緊急事態宣言下では,① 外出自粛要請,興行場,催物等の制限等の要請・指示 ② 住民に対する予防接種の実施   (国による必要な財政の負担) ③ 医療提供体制の確保(臨時の医療実施等) ④ 緊急物資の運送の要請・指示  ⑤ 政令で定める特定物資の売り渡しの要請・収容 ⑥ 埋葬・火葬の特例 ⑦ 生活関連物資等の価格の安定  ⑧ 行政上の申請期限の延長等 ⑨ 政府関係金融機関等による融資  等の法的な措置が取られる。 注2)緊急事態宣言が発出されなかった地域の中で,まん延防止措置が適用発出された自治体が多くある。 注3)2021年12月の段階で新たな変異株であるオミクロン株の国内市中感染が確認され,この影響がどうなるか, 本論執筆時点では予測不明の状況である。  



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