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2.コロナ不安


2-1.大学生の不安

青年期に当たる大学生は,エリクソン(1959)の発達課題において“自我同一性の確立”,すなわち将来に対する見通しが建てられる時期であると考えられる。しかしながら,近年の大学生の中には,青年期における発達課題を達成ができない人に加えて,幼児期や,少年期をクリアできていない精神的に未熟な学生も見られる。その傾向として“アダルトチルドレン”や“スチューデントアパシー”といった言葉が用いられるようになった(緒方,1996:Walters, 1961)。これらの背景には,大学生の未熟さと同時に不安が存在していると考えられる。藤井(1998)は,大学の1年生から4年生までを対象に自由記述での調査を行い,大学生の不安を三つに分類し,それぞれ大学生活において一般的に感じる不安に関連する「日常生活不安」,人の評価に対する不安に関連する「評価不安」,大学に対する不適応間に関連する「大学不適応」とした。「日常生活不安」と「評価不安」の間には,やや高い相関があり,大学生にとって“単位”をはじめとする評価の問題は,日常生活自体の問題と密接に関連していると考えられる。また,日常生活不安と評価不安は学年が上がるにつれて下がる傾向にあり,学年が上がり,大学に馴染むことで悩みを打ち明けられる友人の獲得や,大学での過ごし方が分かり,不安が低下することが分かっている。

2-2. コロナ禍における大学生の不安

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け,従来の大学生活を一変させられた現在では,それによって大学不適応の傾向がみられる大学生が表れていることが文科省(2020)の調査で明らかになっている。文科省によると,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,2020年12月までに大学・大学院を退学あるいは休学した学生が少なくとも約5000名いることが確認されている。国及び県や市町村から通告される各種制限・自粛等によって生じるメンタルヘルスの悪化や経済的困窮等が原因となっており,従来では見られなかった新たな不安を抱えて生活していることが考えられる。藤井(2021)は,大学1年生から3年生を対象に調査を行い,大学生版COVID-19感染拡大不安尺度を作成した。「自粛不安」「感染不安」「大学生活不安」「経済的不安」「部活不安」「予期不安」の6つの下位尺度のうち「経済的不安」が最も項目得点平均値が高く,次に「自粛生活不安」「感染不安」を強く感じていることが明らかになり,大学生においては新型コロナウイルス感染自体よりも,それによるアルバイト等の収入が減少し,満足に生活が送れなくなることや学業継続,進路選択に影響が生じることを強く不安に思っていることが考えられる。

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