1.はじめに
近年,我が国における子どもの自己肯定感の低さが問題となっている。内閣府の「子供・若者の意識に関する調査」(2019)によると,“今の自分が好きだ”と思う子どもの割合は46.5%であり,半数以上の子どもが自分のことを肯定できていない現状にあることが分かる。そして,“今の自分自身を変えたいと思う”にあてはまる子どもの割合は,69.6%であり,子どもたちがよりよい自分自身を目指して模索している様子がうかがえる。一方,“自分には自分らしさというものがある”にあてはまる子どもの割合は 70.5%と高く,大半の子どもが自分の個性を認め,受け入れることができている。これらの結果から,現代の多くの子どもたちは,自分らしさを自覚できてはいるものの,今の自分を肯定するまでには至らず,自分自身の変化や成長を求めていると考えられる。
子どもたちの自己肯定感を高める活動にはどのようなものがあるだろうか。日本ポジティブ心理学協会は,ポジティブ心理学の理論に基づいた教育普及活動を行っている。ポジ
ティブ心理学とは,私たち 1 人ひとりの人生や,私たちの属する組織や社会の向かう状態に注目し,そのような状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域である。その中核となる概念の1つに「強み」と呼ばれるものがあり,近年,注目が集まってきている。「強み」とは,人が活躍したり,最善を尽くすことを可能にさせる特性である(Wood et al., 2011)。それは,「性格の強み」と呼ばれ,程度の差はあれど,皆に備わっている,他人から賞賛され,尊敬されるに値する特性である(Ryan M.&Robert E. 2021 鈴木訳 2021)。ある研究によると,この強みを知るだけで幸福感が 9.5 倍,活用することで幸福感が 19 倍にもなると言われている(Ryan M.&Robert E. 2021 鈴木訳 2021)。
この性格の強みを用いた子どもたち向けの実践にはどのようなものがあるのだろうか。日本ポジティブ教育協会は,小学生向けの書籍の出版や講座の提供を進めている(『見つけてのばそう!自分の「強み」』(小学館),先生と親のためのポジティブ教育講座)。そして,日本ポジティブ教育協会(2021)のホームページによると,性格の強みを意識的に活用することは,楽観性の向上,人間関係の改善,学校への適応能力の向上と学習態度の改善,人生満足度と自尊感情の向上といった多くの恩恵があると報告されている。海外での先行事例を参考に,日本においても各教育現場や家庭など,実践可能な取り組みへの期待がさらに高まってきている(日本ポジティブ教育協会,2021)。
子ども向けの実践的な取り組みとして注目の集まっている強み教育プログラムであるが,自分らしさや自分を受け入れる感覚に焦点を当てた研究により,子どもたちが自分らしさや自分自身を肯定する気持ちを大切にしていくためのアプローチを探ることができるのではないだろうか。そこで,本研究では,子どもたちの本来感,自己受容を高めるために有効な強み介入の在り方を検討していく。
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