1.はじめに


 学習を進めていくなかで,生徒が自分一人の力では解くことができない課題に出会うことは必ずある。そのようなときに,わからないところを質問したり,うまくいなかいときに助言を求めたりすることを,「学業的援助要請(academic help-seeking)」と呼ぶ。学業的援助要請を効果的に活用する学習者ほど,課題解決を先延ばしにせず学習に取り組むことができることから,自律的な学習のための望ましい方略の一つとされている(Schunk & Zimmerman, 1994)。しかし,学業的援助要請のなかには,自ら十分に考慮した上での行動と,安直に他者に頼ろうとする行動とが存在する。生徒が自律的に学習へ取り組めるようにするには,「自ら十分に考慮した上での行動」を促していくことが重要になるだろう。さらに,学習者の中には,自ら十分に考慮した後に他者を頼るという行動が自律的な学習のための望ましい方略の一つであると知りながら,どんな状況であっても他者を頼らない者も存在する。自律的な学習のために有効な手段と知りながら,別の手段をとるのはなぜだろうか。その要因に関する研究は多く取り扱われている。なかでも達成目標など学習者の個人特性を扱った研究が多くされているが,学業的援助要請は相手との関係の中で成り立つ学習であるため,学習者の個人特性だけでなく社会的特性を考慮した研究が必要である。
 
 そこで,本研究では,社会的特性の一つとして仮想的有能感との関係を明らかにすることを目的とし研究を進めていく。仮想的有能感とは,現代の若者の心性を表す概念として創出したものであり,「自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価,軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚」と定義されるものである(速水他,2004)。仮想的有能感と援助要請に関する研究については多く研究が行われており,仮想的有能感が高い人ほど援助要請を控えやすいことが明らかとなっている。しかし,仮想的有能感と学業的援助要請に関する研究は十分に検討されていないうえに,仮想的有能感と学業的ではない援助要請に関する研究結果とは異なる結果が得られている。この結果について,援助要請よりも学業的援助要請では援助内容が学業に限定されることや援助対象者の違いなどが影響を与えたと考えられる。

 本研究では,仮想的有能感と学業的援助要請に与える影響が先行研究と異なる結果を得たのかについて,教師への信頼感に着目し検討する。



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