5. 階層的重回帰分析による検討
仮想的有能感と教師への信頼感の影響から学業的援助要請への影響を検討するため,階層的な重回帰分析を行った(Table9,10,Figure3)。
5-1.生徒の教師に対する信頼感を従属変数とした重回帰分析による検討
生徒の教師に対する信頼感尺度の下位尺度「安心感」,「不信」,「役割遂行評価」をそれぞれ従属変数に,「自尊感情」,「仮想的有能感」,およびそれぞれの交互作用項を独立変数にした重回帰分析を行った(Table9)。なお,独立変数は強制投入法により投入した。
その結果,「自尊感情」から「安心感」に有意な正の影響がみられた(β=.267; p<.001)。また,「仮想的有能感」から「不信」に有意な正の影響(β=.253; p<.001)が,「役割遂行評価」に有意な負の影響がみられた(β=-.183; p<.05)。
5-2.学業的援助要請を従属変数とした重回帰分析による検討
学業的援助要請尺度の下位尺度「適応的要請」,「依存的要請」,「要請回避」をそれぞれ従属変数に,「自尊感情」,「仮想的有能感」,およびそれぞれの交互作用項,生徒の教師に対する信頼感尺度の下位尺度「安心感」,「不信」,「役割遂行評価」を独立変数にした重回帰分析を行った(Table10)。なお,独立変数は強制投入法により投入した。
その結果,「仮想的有能感」から「適応的要請」に有意な正の影響がみられた(β=.202; p<.01)。「安心感」から「適応的要請」,「要請回避」に有意な正の影響(順にβ=.197; p<.05, β=.334; p<.001)が,「依存的要請」に有意な負の影響がみられた(β=-.178; p<.05)。「不信」から「適応的要請」,「依存的要請」に有意な正の影響(順にβ=.218; p<.01, β=.283; p<.001)が,「要請回避」に有意な負の影響がみられた(β=-.154; p<.05)。「役割遂行評価」から「依存的要請」に有意な負の影響がみられた(β=-.194; p<.05)。また,「自尊感情と仮想的有能感の交互作用項」から「要請回避」に有意な正の影響がみられた(β=.139; p<.05)ため,「自尊感情」と「仮想的有能感」の得点に各平均値±1SDの値をそれぞれ代入し,単純傾斜検定を行った(Table11,Figure4)。その結果,自尊感情得点が高い場合に,仮想的有能感に有意な正の影響がみられた(b=.236; p<.05)が,自尊感情得点が低い場合は有意な影響がみられなかった(b=-.081; n.s)。すなわち,仮想的有能感低群は自尊感情が高いほど要請回避傾向が低く,仮想的有能感高群は自尊感情が高いほど要請回避傾向が高い結果となった。
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