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2.コミュニケーション構造


2-1.コミュニケーション構造に関する先行研究

コミュニケーション構造に関する研究はLeavitt(1951)の実験が有名である。Leavittはwheel型、Y型、chain型、circle型の4つのコミュニケーション構造を用いて5人組の集団を対象に実験を行った。wheel型は中心的位置にいる1人とのみ連絡を取ることができる。Y型はアルファベットのYの形を描くように成員同士がつながっている。chain型は横一列に成員がつながっている。circle型は隣り合う成員とのみ連絡を取り合うことができる。実験の内容は、集団メンバー同士の情報のやり取りがそれぞれの構造に固定される、つまり情報授受の相手が固定されるなかで、与えられた問題を集団で解決していくというものである。その結果、wheel型は最も効率的に課題を解決することができるが、中心メンバー以外の満足度は低く、逆にcircle型は、課題解決の効率は悪いが、満足度は高くなることが明らかになっている。

狩野(1971)は、Leavittの実験で用いられたコミュニケーション構造であるcircle型、wheel型にcomcon型を加えた3構造を用いて単純課題と複雑課題を行い、コミュニケーション構造と集団の課題遂行能力、成員満足感の関係について検討している。comcon型とは連絡を取る相手に制限がなく、全員とつながっている構造である。そして、ここでいう単純課題とは、集団の成員が持っている情報を単に集めるだけで解決する課題で、複雑課題とは、情報を集めるだけでなく、成員相互の連絡が十分に行われることが必要な課題である。実験では1つの集団は5人グループで構成されており、実験上circle型は隣り合う2人とのみコミュニケーションを取ることができ、wheel型は中心的位置にいる1人とのみコミュニケーションを取ることができ、comcon型は制限が無く、集団のメンバー全員と自由にコミュニケーションを取ることができるという条件になっている。狩野によると、集団の課題遂行能力については集団が行う課題の特性によって効果的な構造条件は異なるという。単純課題ではwheel型が最も適しているが、複雑課題ではcircle型が最も効率的に作業を進めることができる。また、作業満足感については課題特性に関係なくcircle型の方がcomcon型よりも高くなったことから、集団構造の効果は成員満足感に対して一義的な効果を及ぼすものであるとしている。

さらに、狩野(1977)は単純課題と複雑課題という、課題の解決手順の特性だけでなく、課題の情報の量にも着目している。解決手順は同じだが情報量に差がある2種類の単純課題を行い、課題の情報量とコミュニケーション構造について検討している。wheel構造は中心的位置にいる1人に情報が集中するという特性をもつために、情報量が多い課題では過剰に情報が集中してしまい、非効果性が生じやすい。さらに、一旦中心者に非効果性が発生すると集団全員の機能に影響をもたらしてしまう。これに対しcircle構造は、情報が1人に集中することはなく、1人に機能の阻害が生じたとしても他の成員に与える影響は少ない。そのため、情報量が少ない課題ではwheel型が課題解決が速く、情報量が多い課題ではcircle型が課題解決が速い。つまり、効果的ネットワークは処理する情報の量によって変わることが明らかになっている。

また、飯塚・小林(2020)は、SNSにおけるコミュニケーション構造について研究を行っている。circle型、comcon型、wheel型の3つのコミュニケーション構造において、Twitterのダイレクトメッセージを使用して熟語構成課題を行い、コミュニケーション構造の違いが集団凝集性におよぼす影響について検討している。その結果、発言回数が多くなるほど集団凝集性も高くなり、circle型の集団凝集性が最も高く、comcon型の集団凝集性が低いことが明らかになった。

そもそも集団に関して言えば、集団凝集性が高い集団ほど優れたパフォーマンスを示すと期待される(飛田,2009)。また、集団凝集性が高くなると、目標達成に向けて成員同士が自ずと協力的になるため、課題遂行のレベルが上がるなど、全般的には望ましい傾向が見られる(森,2020)。そのため、集団凝集性の高さは成員の集団に対する満足度に影響を及ぼすと考えられる。

これらの研究はいずれも、相手の顔が見えない状況でのコミュニケーション構造について検討している。LINEもメンバー同士が顔を合わせてのコミュニケーションではなく、基本的には文面のみでコミュニケーションを取る(音声による集団会話機能もあるが、本研究ではメール授受の機能に焦点を当てて検討する)。そのため、LINEグループの集団にもこの構造の特徴を当てはめることができると考えられる。


2-2.各コミュニケーション構造の特徴

これまでの先行研究から明らかになっている各コミュニケーション構造の特徴をまとめておく。各構造については先にも簡単に説明をしているが、改めて説明する。各コミュニケーション構造を図式化したものをFigure1に示す。

circle構造は、成員は隣り合う2人とのみ連絡を取り合うことができる。メンバーの間に連絡を取れる人数に差はなく、情報量や負担は全員が平等である。情報量の多い課題や複雑課題に適しており効率よく解決できる。また、課題の特性に関わらず成員の満足度が比較的高いのも特徴の1つである。

comcon構造は、連絡を取る相手に制限が無く最も開放的な構造である。コミュニケーションに制限はないが、その分全メンバーと同時に連絡を取れるために、会話に入りづらいと感じたり社会的手抜きが起こりやすく、コミュニケーションの量はむしろ少なくなる傾向にある。全員が平等な構造だが、コミュニケーション量が少ないため満足度は低い。

wheel構造は、中心的位置にいる1人とのみ連絡を取ることができる。中心メンバーと周辺メンバーで情報量や情報処理の負担が最も不平等な構造といえる。中心メンバー1人に情報が集中するため、単純課題や情報量の少ない課題の場合は最も効率的に課題を進めることができる。しかし、情報量が多い課題では中心メンバーに情報が過剰に集中するため非効率である。また、成員の満足度は最も低い。

Y構造は、アルファベットのYの形を描くように成員同士がつながっている。chain構造は、横に一列に鎖のように成員が配置されている。この2つの構造は完全な平等でも不平等でもなく、circle型とwheel型の中間に位置する。

さて、LINEのグループ機能では、コミュニケーション相手が固定されることはないため、情報のやり取り上の制限は無く、グループに参加さえすればメンバー全員が自由に発言できるので、基本的にはcomcon型であると言える。しかしグループの中には、一部の中心的メンバーの発言が多くその他のメンバーはほとんど発言しないといったパターンも存在すると考えられる。そういったグループの場合は、実質的にはwheel型の構造であると言えるだろう。他の3つのコミュニケーション構造は、LINEグループでは実際にはほとんど発現しにくいと考えられる。よって本研究では、comcon型の構造を持つグループとwheel型の構造を持つグループに焦点を当てて検証する。

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