5.考察


5-1.コミュニケーション構造による組織コミュニケーション満足度の差

コミュニケーション構造による組織コミュニケーション満足度の差を検討するため、対応のない t 検定を行った。その結果、comcon 型が wheel 型よりも満足度が高いことがわかった。よって、「wheel 型の方が comcon 型よりも組織コミュニケーション満足度が高い。」という仮説は支持されなかった。フォーマルグループは組織を円滑に運営することを目的として作られるため、組織内で起こる問題や課題を解決する場面も多く見られると考えられる。そのため、Leavitt(1951)の研究結果から、課題解決に適している wheel 型のグループの方が満足度が高くなると考えた。また、飯塚・小林(2020)の comcon 型の集団凝集性が低いという結果から、集団凝集性の高さは満足度の高さにもつながると考えた。これらの先行研究から仮説を立てたが、本研究では逆の結果になった。

飯塚・小林(2020)の研究では、comcon 型の集団凝集性は低かったが、最も集団凝集性が高いのは circle 型であり、comcon 型と wheel 型の差は比較的小さい。また、フォーマルグループでは課題を解決する場面が多くあるのではないかと考えたが、Leavitt(1951)や狩野(1971)の実験では、実験室である 1 つの部屋に被験者が集まって仕切りをされた状態で単純課題を遂行している。実際に同じ場所に集まって課題を遂行する場合と、LINE 上でのメールのやり取りの場合とでは状況や条件が異なるとも言え、このことが影響していると考える。

項目 1「グループのコミュニケーションが、目標達成に向けたやる気を起こし、刺激する程度」、項目 3「グループのコミュニケーションが、自分とグループと一心同体であり、グループの不可欠な一員であると感じさせてくれる程度」、項目 4「課題や仕事に必要な情報をタイミングよく受け取れる程度」、項目 14「グループにおいて、コミュニケーションに対する態度が、基本的に健全である程度」、項目 18「グループ内の仲の良さ」、項目 19「グループの普段のコミュニケーションが活発で正確である程度」の 6 項目において、comcon 型が wheel 型よりも有意に満足度が高かった。さらに、comcon 型と wheel 型の各因子平均を算出し、対応のない t 検定を行った(Table4)。その結果、第 1 因子「グループ内意思疎通満足」のみ comcon 型が wheel 型よりも有意に満足度が高かった(t(178)= 6.745, p <.001)。

狩野(1977)によると、情報量の多い課題の遂行では wheel 型の構造では非効率が生じるという。先行研究で行われている単純課題は集団の成員が持っている情報を単に集めるだけで解決するものだが、実際の組織の運営ではそのような状況は少なく、むしろ成員相互の連絡が十分に行われることを必要とし、情報量も多くなるだろう。さらに、LINE はネット上だけの関係性ではなく、FTF(face-to-face)の関係もある場合においての補完的な役割を担っている(黒川・吉田,2016)。LINE 上のコミュニケーションは、メンバーと直接会えな25い場合に指示や報告をする補助的な面において使われ、課題を実際に解決していくという場面は LINE 上ではむしろ少なく、そういった場合は顔を合わせて話し合いをするため、課題解決に適した wheel 型の満足度は上がらなかったのではないか。

さらに、加藤(2018)によると LINE のグループトークではメンバーの一部だけで話が進んでしまったり、一部のメンバーの発言が無視されたりすることがあり、それがメンバーの反感を買うことがあるという。この事例はまさに wheel 型の構造を持つグループのことだろう。

LINE のグループでは、先行研究のように実際に同じ空間に集まって対面で集団を構成する場合とは異なり、効率的に課題を解決するということよりも、メンバー全員が平等かつ相互に連絡を取り合うことが求められていることが明らかになった。

各因子平均での比較 t 検定では、第 1 因子「グループ内意思疎通満足」のみ comcon 型の方が wheel 型よりも満足度が高いという結果になっている。これは、グループ全体のコミュニケーションについて最も comcon 型と wheel 型で差が出やすく、仕事や課題についての指示や報告などは comcon 型でも wheel 型でも円滑に行えており、後輩や先輩とのコミュニケーションについても、コミュニケーション構造によって満足度が大きく変わるわけではないと考えられる。

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