結果と考察(事例3)
<3節:事例3>
3-1.事例概要
インタビュー当時,交際6年と半年が経っていた二人についての概要である。以下カップルⅢとする。
ダイキ(仮名/22歳/男性)は三重県内,ミユキ(仮名/22歳/女性)は愛知県内の大学に通う四年生である。同じ中学,高校を卒業しており,ともに実家暮らしである。
二人が仲良くなったきっかけは,中学3年生の秋に,ミユキの座席がダイキの親友と隣になったことだ。志望校が同じということが分かると,ミユキは当時苦手だった数学をダイキに教えてもらうようになる。LINEで問題や解説の写真を送り合っていた。互いに第一志望の高校に合格が決まると,必要なもの等の情報共有も兼ねて連絡をとるようになる。高校入学後,クラスに同じ中学校を卒業したメンバーが二人の他にいなかったことからよく話すようになり,互いに気になる存在となっていった。2015年4月24日,交際開始。高校生活3年間は,ほぼ毎日登下校を共にしており,休日に会ったりデートをしたりすることは少なかった。大学入学後,週1回のペースで会うようになる。アルバイトで稼いだお金を使えること,車を運転できるようになったことから旅行にも行きやすくなり,思い出が増え,二人の距離が縮まった。大きな喧嘩も三度経験したが,その都度話し合いをして解決し,現在は互いに前向きな気持ちでいることができているという。
3-2.結果
3-3.考察
カップルⅢは,友人関係から始まり恋人関係へと発展している。ダイキもミユキもあまり異性と積極的に話すタイプではなく,特にダイキにおいては女性に苦手意識を抱いていた。しかしダイキとミユキは,互いに一番話しやすいと思える異性だったという。そのことが好意を抱くようになったきっかけかもしれないと話しており,他の異性に比べて何か違う,その人にしかない特別な点があったり,他の異性よりも接触が多かったりすると,相手を恋愛対象として意識しやすくなるのだと考えられる。
交際前,中学3年生の頃からLINEトークをしていたが,当時はミユキがダイキに分からない問題を教えてもらうための連絡手段として利用していただけで,会話を楽しむことはほとんどなかったと話していた。しかし中学卒業後,LINEトークを通じてたわいもない会話をするようになり,お互い異性として意識し始めたという。これは,連絡の目的,それに伴い内容も変わり,相手をより身近に感じることが多くなったためだと思われる。そして高校入学直後,交際を開始してからは,LINEトークの頻度もさらに増え,学校や部活動以外の空いた時間にはよくメッセージを送り合っていた。しかし大学入学後,忙しくなったことに加え,同じようなやりとりばかり繰り返していてもおもしろくないという理由から,LINEトークの頻度は徐々に減っていった。今では「おはよう」,「おつかれ」のラリーで一日が終わることがほとんどだという。
つまりカップルⅢにおいては,交際前仲が深まっていくにつれてLINEトークでの連絡頻度は徐々に増加,交際後さらに増加し,高校生活三年の間変わらず頻繁にやりとりを交わした後,大学入学から徐々にその頻度は減少してきており,関係初期から中期において増加,中期から現在において減少しているといえる。
LINEの役割や必要性を尋ねると,生存確認ができる手軽な手段だと答えてくれた。毎日変わらないやりとりを繰り返す中でも,その返信の有無や時間帯を気にしたり,安心したりしているのだろう。しかし「LINEでなくても他の連絡手段があればその役割は補える。」という発言があったことから,LINEに固執しているわけではなく,あくまで連絡手段の一つだと捉えており,代替可能だと考えていることが分かった。ここで,他の連絡手段の一つに電話(あるいはLINE通話)があるが,ダイキとミユキは共に電話が苦手で,緊急の連絡を除いてはこれまでに二人で電話を使って話したことがないと話していた。相手が誰であっても,どうしても必要な場合以外には電話はなるべくしたくないという。その理由として,顔を合わせて話す時とは違い,二人が黙り込む時間ができると気まずさを感じることが挙げられた。会って話したりLINEトークでメッセージを送ったりするほうが気軽にできると言っており,そういった面において,電話をするほどの用件でもないことを文字媒体で実際の会話のように伝達したい場合には,LINEが適していると考えられる。
ところでダイキは,誰に対しても全く絵文字を使わない非使用型の態度をとっている。ミユキに対しても一度も使ったことはないそうだ。絵文字を付ける必要性を感じておらず,むしろ面倒だという気持ちが大きいという。中学生の頃は文末に何もつけないことがほとんどでたまにビックリマークを使っていたが,高校入学後,文末に何もつけずにメッセージを送ったところ,ミユキから「元気ないの?」と聞かれたことを機に,(笑)やビックリマークを付加するようになった。元気がないと思われるほうが面倒だったのだという。一方ミユキは,中学生,高校生の頃は絵文字を使っておらず,代わりに顔文字やビックリマーク,(笑)を文末に付加しており,大学入学後,絵文字を使うようになったという。ミユキは「女子の流行りに合わせて自分も(同じような文字や記号を)つけていた。ビックリマークや(笑)はずっと使っているが,中学,高校では,顔文字をつけたモノクロな文章が主流で,大学に入ってからは絵文字をつけたカラフルな文章にする人が多くなった。」と話していた。また,感謝や謝罪等を伝えたい時に付加する絵文字はそれぞれ決まっているが,それ以外の場合に付加する絵文字と文章内容との関係は気にしておらず,自分が可愛いと思うものを好きなだけつけているという。ミユキは,ダイキが絵文字を使用していないにも関わらず積極的に使用しているため,独立的使用型の態度であるといえる。これらのことから,カップルⅢは,お互い相手に合わせようとすることはなく,自身の思うようにメッセージを送っていることが分かる。
ダイキとミユキは,大学生になってからより仲が深まったといい,その要因について「車とお金があることが大きかった。旅行にもたくさん行って,思い出が増えた。」と話してくれた。お互い車を持ったことで,それまでよりも会いやすくなったり,車の中で話して時間を潰すことができたり,ドライブというデートの選択肢が増えたりしたという。車を持つまでに約三年半の期間を共に過ごしておマリンネリ化しつつあった時期に,車での移動が可能になるという大きなイベントが発生したことにより,日常に変化や刺激が与えられ,二人の関係にも良い影響をもたらしたと思われる。また,アルバイトによってお金を稼ぐことができるようになり,自由に使えるお金と時間が増えたことから,それまでよりもデートの幅が広がった。食事や遠出,旅行等様々な体験を共にすることで,お互いの新たな一面を知ったり,同じ味や景色,感動を共有することで,二人だけの話題ができたり一体感が生まれたりするのではないか。
その一方で,大学に入ってから三度大きな喧嘩もしたという。普段からミユキは,ダイキに対して気になることがあればその都度伝えており,その中でも特に大きな不満が爆発した際に喧嘩になってしまった。ミユキが思っていることをダイキに直接伝えられるのに対し,ダイキは思うことがあってもミユキには言わない。不満を伝えることで喧嘩になったり空気が悪くなったりすることが嫌で,怒ることに労力を使いたくないため,自分がミユキに合わせる方が楽だという。さらに,ミユキが自分に対して抱える不満や気になることが,ダイキにはどれも理解できなかったと話していた。そのため,ダイキは喧嘩になったときのことを振り返り,「(もしミユキの立場が)自分だったら気にせずスルーしていたことだと思う。言われてもピンとこなかった。」と話しており,徐々にミユキの意見 や指摘に対して言い返すこともできるようになったという。一方でミユキは「常識的に考えて本当に悪いとされることをしたのであればダイキも納得するだろうけど,考え方や恋愛における価値観が少し違っているから,納得できないのだと思う。(ダイキが)自分では気づきようもないし,最近は言っても意味がないのかもしれないと思い始めた。」と話していた。不満を抱えた時の対処法がそれぞれ異なるように,この場合にはこうするべき,とか,こうされたら嬉しい,というような価値観,考えがお互いに違っているのだろう。ミユキはこれまで,ダイキに不満を伝える度に,直そうとする気持ちや二人の今後を前向きに考える姿勢があればよいと考えており,それが別れない条件でもあった。不満もあるが好きなところもあることから,本気で別れたいと思って話を持ち掛けたことはなく,怒りの気持ちや気に障ったという事実を伝え,改善を促すことが目的だったのだという。しかし喧嘩を繰り返すうちに,根本の価値観や考え方を否定するのは違うと感じ始めたのだろう。これは,不満をそのままにして放っておくことや相手を突き放すことではなく,相手の気持ちを尊重することであると思われる。相手の気持ちを汲み取り,互いに譲り合って歩み寄ることももちろん大切だが,相手は相手,自分は自分,と割り切って考えることも大切だろう。価値観や考え方が全て同じでなければならないわけではなく,むしろ違いがあるからこそ二人でいる意味が見いだせるという側面があることも否めない。
こうして話を聴いて経過を辿ってみると,カップルⅢにおいては,絵文字使用の態度をはじめ,お互い〝相手に合わせる″ことが少ないカップルであると筆者には感じられた。インタビューの最中も,相手の発言に対して,共感を示すのと同じように,否定や疑問の反応もはっきりと示していたことが印象的だった。ダイキとミユキは,互いに相手に依存・干渉しすぎず,個々で独立し合って適度な距離感を保ちながら,良好な関係を築いていると考えられる。
以上のように,カップルⅢの二人の関係初期から現在までの約6年6か月間のLINEトークのやりとりを中心に見てきたが,ダイキは一貫して絵文字を使用しておらず,ミユキはその時々の流行に合わせながら顔文字や絵文字を使用していることが分かった。これは,親密さが上昇するにつれて絵文字使用が促進され,さらに親密になると絵文字使用が抑制されるという筆者の予想とは全く異なる結果であり,カップルⅢの二人は,それぞれ絵文字使用スタイルが違うといえる。
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